収納の魔法指輪
「……これは盗品じゃあないんだね?」
俺が鍛冶スキルで研いだナイフを持ち込んだところ、ジャガ婆は俺を見るなり、そう言った。
やっぱり異常だよな。
孤児の俺が今朝までは持っていなかったナイフを売りに来た。
それが錆もない新品同様の状態なら、まず盗品ではないかと疑うのも無理はない。
が、これは間違いなく盗品ではないし、鍛冶スキルで研ぐことをやめるつもりもない。
なので、俺からできる返事は一つだ。
「違うよ。地下水道で拾ったナイフを自分で研いだんだ。ジャガ婆が買い取れないなら、よそに持っていくよ」
「……そうかい。こんなものをよその店に持っていっても、怪しまれるだけだろうねぇ。まあ、いいさ。あんたが盗んでいないっていうなら買い取ってあげるさね。このナイフ二本で3000ジェニー。小魔石も合わせて合計で4000でどうだい?」
「オッケー。けど、指輪は買い取れないの?」
ジャガ婆が俺の話を信じてくれたのかどうかは分からない。
が、ジャガ婆は買い取ってくれるようだ。
強気なことを言ったものの、正直こちらの立場は弱かった。
ジャガ婆の言う通り、孤児の俺がこんなきれいなナイフをほかの店に持っていったところで買い取ってくれるところがあるかどうかは微妙だからだ。
これが、冒険者なら楽だったんだろうけどな。
冒険者ギルドで買取もしてくれるし、所属する冒険者の利益を守るために少なくとも無碍にはされないはずだ。
孤児出身の冒険者でも事情は同じだ。
だからこそ、孤児には冒険者を目指す者が多い。
要するに、冒険者でもなんでもない今の俺には社会的信用が一切ない。
ジャガ婆みたいに孤児相手でも商売をしてくれる相手は貴重なのだ。
そして、それは指輪のようなものを売るにしても同じだ。
むしろ家庭用のナイフとは違って、指輪のほうがより買い取ってくれる店が少ないだろう。
ここで買い取ってもらえなければ使い道がないのだが、先ほどのジャガ婆の買取金額には指輪の分が含まれていなかった。
この店では買い取ってもらえないのか、俺は確認した。
「これを買い取れっていうならもちろんいいがね。あんたはそれでもいいのかい?」
「え? どういうこと? 俺が指輪をするように見えるの?」
「ふむ……まあ、あんたには正直に話しておこうかね。この指輪を買い取るとすれば十万ジェニーでもまだ足りないよ」
「……は?」
思わず声が漏れた。
「え、なんて言ったの? 十万?」
「そうさ。これは魔法の指輪だからね。収納の効果の魔法陣が刻まれているから、それくらいの値段はするのさ。もちろん、店売りのものを買おうとするともっと高いよ」
「収納の指輪ってことは荷物が入れられるっていうことなのかな? すごいね」
「まあね。こいつは小さい容量しかないタイプのようだからそのくらいの値段だが、もっと大がかりなものなら億は越えるからね。で、売るのかい?」
「売らない。自分で使うよ」
「そうじゃろうね。こいつは大きなカバン程度の荷物を入れられるはずだから、うまく使うこったね」
「ありがとう、ジャガ婆。でもいいの? そんなの俺に教えずに安く買い取っても、俺は多分気づかなかったよ」
「その時はあたしの目が節穴だったってだけさ。あんたはまだほかにもいろいろ持ってきてくれそうだからね。ほかにも何か見つけたら、まず最初にここへ持っておいで」
「分かった。その時はよろしくね」
ジャガ婆、めちゃくちゃいい人じゃないか。
よぼよぼの婆さんで、以前は少し薄気味悪くて怖い印象を持っていた。
だが、こんな対応をしてくれるとはね。
ほかの店だったら、俺は間違いなく知らずに指輪を手放していたことだろう。
その性能を教えてくれる店なんてないからだ。
収納の指輪は絶対に役に立つと思う。
冒険者なら誰もが欲しがる魔道具だろう。
いや、冒険者に限った話じゃないか。
もちろん、俺にとってもかなり魅力的なアイテムだ。
察知スキルのおかげで地下水道での探索で魔ネズミやスライムを見つけやすくなっていることも関係している。
獲物を倒して戦利品を手に入れたときに、魔法の指輪に収納できるなら、実際に持ち歩く荷物の量が減らせるということだ。
つまり、もっと多くの獲物を狩り、肉を持ち帰れるようになる。
俺はそそくさと指輪を自分の指にはめてみた。
だが――指のサイズが合わなかった。
そのことに気が付いて、俺は思わずがっかりしたのだった。
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