当面の金策
「ルート、あんたの手に持っているそれは盗品じゃないだろうね?」
魔石を売り、調味料を買ったことで、俺としてはジャガ婆の店での用事は済んだ。
なので、そのまま店を出ようとしたが、向こうから声をかけられた。
このばあちゃんは孤児相手でも追い出したりはしないが、俺と特別親しいわけでもない。
孤児院の用事で来たことがあるから、お互いに顔と名前を知っているだけだ。
そんな間柄にもかかわらずジャガ婆が話しかけてきたのは、俺が手に持っている物を見てのことだったのだろう。
「違うよ。昨日地下水道に行ったときに水道の底で泥に埋まってるのを見つけたんだ。だからこれは俺のだよ」
落とし物は、拾った者の所有物となる。
これはこの街での常識だ。
わざわざ落とし主を探すのなんて貴族街とかそっち方面の話だろう。
そっち方面であった場合はさっさと届け出たほうがいい。
そうしないと、落とし主が現れたとき、所持しているだけで泥棒と決めつけられ、殺されてもおかしくはない。
だが、そんな高貴な連中が地下水道に物を落とすとは考えにくい。
万が一、その可能性があるとすればとんでもない大雨の日にその雨の水で流された物が地下水道にまで流れ着いたとか、それくらいだろう。
その場合は、拾った物が明らかな高級品だったり家紋入りのときに注意が必要だ。
しかし、今回はそのケースには当たらない。
汚水の底で見つけたそれには誰かの所有物らしき印はどこにもなかったからだ。
「いいから見せてみな。大丈夫、取りはしないよ」
だが、俺の言い分はジャガ婆にとってはどうでもよかったようだ。
さっさと見せろと手を伸ばす。
拒否することもできたが、相手は老人だし、力はこちらが上だ。
今後もこの店に来るかもしれないことを考えて俺は包んでいたボロ布をほどき、小剣を手渡した。
「いい状態の剣だね。あんた、これは売らないのかい? 今なら8000ジェニーで買い取るよ」
8000ジェニー。
木宿に何日泊まれる?
パンは何個買える?
——――いや、駄目だ。
「うーん、魅力的な値段だけどパスだね。それは今日から俺の武器にするつもりなんだ。代わりにこっちはどう?」
「なんだいこりゃ。こんな錆びた短剣じゃ、そうさね。300ジェニーなら引き取ってやるよ」
「安すぎでしょ。まだそれ一応使えるんだよ?」
「どこの店でもそんなもんさ。こんなボロだと錆を落として研ぎなおしてあれこれ手を加えて売ろうとすると、それ以上払ったらこっちの足が出るからねぇ」
「……ってことはこの短剣も状態さえよければもっと値段が付いたってこと?」
「そりゃそうなるね。まあ、1500~3000が関の山だよ」
なるほど。
ってことは、小剣を店で買おうと思ったら買取金額の何倍ものお金がかかる、ってことだな。
なら、なおさら売れるわけない。
が、いいことを聞いた。
正直なところ、金策をどうするか悩んでいた。
魔石を売って小銭を稼ぐ。
それでも木宿で寝泊まりするだけならなんとかなるのかもしれない。
が、お金がたまらない気がする。
これは、いい宿に泊まりたいとか、お金持ちになりたいという話ではなく、食べ物問題につながってくる。
さすがに俺も、毎日毎食を魔ネズミの肉だけで済ませるわけにはいかない。
腹を膨らませることは最重要の問題だが、毎日毒性のある地下水道で獲った肉では健康度も回復しなくなるんじゃないだろうか。
なので、パンや野菜を食べる必要もあると感じている。
が、何も持たない孤児で、冒険者ギルドすら見習いから追放へと追い込まれた俺はそれらを食べる手段は金を稼ぐか、盗みに手を染めるしかない。
さすがに盗みを第一に考えるわけにもいかないだろう。
いつか捕まって殺されるか、牢に放り込まれて飢え死にするだけだ。
だからこそ、焦っていた。
このままでは、いずれ詰む。
まとまった金を得る手段が、どうしても必要だった。
それがジャガ婆との会話で希望が見えた。
「ねえ、もしもまた俺が地下水道で落とし物を見つけたら買い取ってくれる?」
「ああ。危ない品じゃなければこの店に持ってきな」
ジャガ婆は一目見て俺の小剣が盗品ではないと判断していたように思う。
多分売り買いしたらまずい商品を一目見て気づくことができるんじゃないだろうか。
そうじゃないと、貧民街で店を構えてられないだろう。
そして、それは俺の代わりに判断してくれる目にもなるってことだ。
ジャガ婆が買取を拒否するような品なら、下手に持ち歩かないほうがいい。
というわけで、俺は再び地下水道へと向かった。
今日の食料と金目の物を探すため、俺は再び地下水道へと降りていった。
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