貧民街の店
木宿の大部屋で目を覚ました俺は、人がぎっしりと寝転ぶ部屋から這い出した。
まだ朝も早く外は暗い。
部屋の中も暗いが、この一年地下水道に通っていた俺は暗さには慣れている。
寝ている連中を踏まないように忍び足で外へと出た。
かなり早くから目が覚めてしまった。
それというのも、一晩中、察知スキルが反応して、何度も何度も起こされたからだ。
眠りが浅かったのかもしれない。
これでは寝不足で活動に支障をきたすかと心配する。
が、外で大きく伸びをしてみると案外と体の調子は悪くなかった。
いや、むしろかなりいい。
もしかして、健康スキルの影響なんだろうか。
何度も目は覚めたはずなのに、不思議と疲れは残っていない。
ぐっすり眠った後のように体が軽い。
肩が軽い。
頭も冴えている。
むしろ、今までの俺はずっと不健康だったんじゃないかと思えてくる。
孤児院でも、夜中に年下の子をトイレへ連れて行かされたり、寝相の悪い子に蹴飛ばされたりしていたからだろうか。
なんにしてもありがたい効果だ。
これなら、朝から頑張れそうだ。
では、早速地下水道に行くか、というわけにはいかない。
その前に今日は店に行こうと思う。
本来ならば昨日のうちに行ければよかったのだけど、魔石を売ってお金に変えておかないといけない。
とはいえ、まだ暗いこんな朝から店が開いているだろうか。
そう思いながら、木宿を出て、さらに貧民街の奥へ向かった。
朝靄の中、腐った水の匂いと煙の匂いが混じる。
この街は都市と呼ばれるほど大きい。
何人住んでいるのか正確には知らないが、きっとものすごい数の人がいるんだろう。
俺はそんな都市の中の孤児院で育てられた。
貧乏な孤児院で貧民街と隣接する位置にある。
路上で暮らしていないというだけで、食べ物に困って拾い食いして腹を壊すなんてことがあるくらいには大変だ。
着ている服はぼろぼろで汚れているために、見た目には路上暮らしの子どもと大差ない。
だから都市のまともな商店は、俺たち孤児を露骨に嫌がる。
入る前に止められるか、最悪の場合は盗みにきたのかと勘ぐられて何もしていないのに殴られて追い出される。
そんなわけで、俺が魔石を売るにしてもきちんとした店には行くことすらできない。
だが、そんな俺でも行ける店がある。
貧民街の中の店だ。
店といっても看板すらない。
あばら家の中で細々と売買しているような場所だ。
ここなら、冒険者ギルドから追放された俺でも魔石を売れると思う。
二束三文で買い叩かれるのはこの際しょうがない。
「小魔石五つか。300ジェニーだね」
「オッケー。それでお願いね、ジャガ婆。あ、そうだ。塩とか調味料ってあるかな?」
「……なんだい、ルート? あんた、料理人にでもなったのかい?」
「まさか。自分で食べる分を作るだけだよ。300ジェニー分、塩と胡椒をお願いね」
昨日スライムを倒して得た魔石のうちの一つは調理スキルで消費した。
そのため、残っているのは五つ。
その小さな魔石を売ったら、木宿なら二泊できるくらいの金にはなった。
まあ、この辺りにきちんとした相場なんてないから、日によって変わるんだろうけど。
だが、それでもこのジャガ婆と呼ばれる年齢不詳のしわだらけの老人は買い取ってくれた。
この人は貧民街で長く店をやっている人物だ。
物騒な連中も多い地域でうまくやれるというだけですごいことだと思う。
こんな早朝から店を開けているのは、年寄りで朝が早いからだろうか。
そんなことを考えつつ、手にしたお金でそのまま少量の塩とそのほかの調味料を買った。
昨日は野性味あふれる肉串をそのまま食べてしまったからな。
さすがにこれくらいは用意しておいたほうがいいだろう。
次はこの調味料を使って調理をした肉串を食べよう。
それを想像したからか、今からお腹が鳴り始めた。
そんな俺に向かって、ジャガ婆が話しかけてきたのだった。
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