剣で語る
ミューゼア嬢は剣を構えた。
おお? これはだいぶ見事な……、バランスの取れた姿勢で、腰がどっしりしている。あくまで俺の目から見ての話だけど、隙が見えない。
「はっ!」
気合と共に剣を振るい始めるミューゼア嬢だ。その動きは滑らかで、流れる水のよう。柔らかい剣技だった。それでいて、端々に鋭さもある。
「ふっ! やあっ!」
動きが激しくなってくる。流派などに詳しい俺ではないが、彼女の剣はきっと都の剣なのだろう。洗練されていると思った。それに、いや、あー、……なんかだんだん言葉が出なくなってきた。目を奪われてしまう。
綺麗だな彼女。
どれほど経ったろう、剣舞が終わりを告げた。
どうにも見とれてしまっていたようで、ぼんやりしてしまっていた俺は、ふと我に返る。
気がつくと、上気した顔でミューゼア嬢が俺の方を見ていた。
「どうでしょうか……?」
あんなに見事な剣を披露しておきながら、彼女はどことなく自信なさげな上目遣い。
「いや、凄いでしょ。なあセバス!?」
「はい。見事なものと感心致しました」
「ほ、本当ですか」
本当だ、見とれてしまった。
長い年月を費やしたことがすぐにわかる、立派な剣だった。
「自己流でしたので、そう言って頂けると嬉しいです」
「え、自己流なのですか? それにしては洗練された剣でしたが」
「ゲームのシステムに沿った剣技ですので……」
「はい?」
「あ、いえ。こちらの話です。……いざと言う時には自分の身は自分で守れるように、と必死で覚えたのです」
嬉しそうに微笑んでから、改めて彼女は俺の顔を見た。
「なので、剣をお贈り頂けたことは本当に嬉しいのですよ。お肉の話だって、ギリアムさまが一生懸命に私を持て成そうとしてくださってたことは伝わります。不器用ながらお優しい方だと、私、久しぶりに心が安らぎました」
「そ、そう? よかった」
俺はホッと胸を撫で下ろす。
これは一応、持て成すことに成功したと言っていいのではなかろうか。
頑張った、俺。よくやった俺。この調子で女性恐怖症も克服していきたいものだ。
「そうだミューゼア嬢、返礼代わりに俺も一つ剣を披露させて貰いますよ」
といって俺は、中庭に置いてあった木剣を手に取った。
俺も剣を振るのは大好きだ。
もちろん人が剣を振るのを見るのも気持ちがいい。特に今日は、彼女にとても良いものを見せて貰えた気がする。
だからこの人には、ぜひ俺の剣も見ておいて貰いたい。
なんだろうな、こんな気持ちになったのは初めてかも。きっとこれは、俺なりのお近づきの印、というものだ。
「セバス」
「はいギリアムさま、わかっております。ミューゼアさま、こちらへ。離れませんと、危のうございます」
「え、こんなに? もう相当離れましたが……」
「はい。そんなに、ですな。というかもっと離れませんと」
二人が離れていく。
さてこの中庭、今さらだが草も木も生えていない。
丸だしの土が地面となっている、景観もへったくれもない庭だった。
なぜか。
それは、時折俺が、ここで剣を振るうからだ。
「やりますよー」
二人に声を掛ける。俺は木剣を握りしめて跳躍した。
「必殺!」
木剣を振り上げる。
「大地を揺るがす一撃!」
土が舞った。地面にまた大穴が開く。
衝撃波が中庭に面した窓という窓をビリビリと震わせた。魔法で強化された特注の窓ガラスだ、これで割れることはないだろうが思いっきり技を繰り出したら、それもどうだかわからない。
また中庭の整備が必要だ、当面使い物になるまい。
だけど返礼だからね。あくまで中庭で見せられる範囲の威力でだけど、しっかりとミューゼア嬢には見ておいて貰いたい。
「どうですか、俺の剣は?」
ニコニコと、振り向いてみると顔を真っ青にしたミューゼア嬢がいた。
あれれ? 笑顔で褒めて貰えるかと思ってたのに。
ちょっとがっかり気分を味わっていると、彼女が呟くように言った。
「その技……大地を揺るがす一撃? ドラゴンさえも一撃で倒すという」
「おや。なんで知ってるんですか、これ自己流の技なんですが」
「ゲームの主人公が、最終盤で覚える必殺技……ですよ?」
「はい?」
ミューゼア嬢はたまにわけのわからないことを言うよな。
「ゲーム世界の原作ブレイカー……。あなたとなら、私も破滅エンドを回避できるかも」
「ああ、その破滅エンドっていうのが俺も昔から気になっていて」
そうなんだよな。
子供の頃にミューゼア嬢が俺に言った言葉は的確すぎた。
あのままだと俺は確かに、自分が背負わねばならない責任から目を逸らし続けただろう。魔族との戦いにも負け、田畑は育たず、不毛の大地の中で俺はジクジクと世を呪うだけの空しい人間になっていたに違いない。
そんなのはイヤだ、と俺は奮起した。
変わろうとしているうちに、領民たちの苦しみを知った。当時の彼らは、不毛のライゼル領の中で世を呪っていた。彼らと俺は同じだと思った、全てを諦め大変なことから目を逸らし、その日の快楽を求めて暮らす。
彼らを変えられるのは俺だけだ。そう思った。絶対に、俺は彼らと共に変わってみせる。あの日から、俺は領地の開拓を真剣に考えだしたのだ。
俺に女性への恐怖を植え付けたと共に、そこまでの決意をさせたミューゼア嬢。
「なぜあなたは、そんなに色々なことを知っているのですか?」
思わず俺は訊ねたのだった。
今日は3話投稿予定です。12時10分、16時10分。
そこまででだいたい話の骨子がわかるようになる予定であります。




