ギリアムなりのおもてなし
夕食の時間がきた。
祭りでも軽く食べたが、基本的には領民と喋るがメインだったのでまだまだお腹は空いている。
今日のためにこの間倒したドラゴンの肉の上等な部分をたっぷり用意した。
ドラゴン肉は魔物肉の中では筋が少なめで美味しい部類だ。領民が喜んでくれるこの肉を、今日はたっぷりとミューゼア嬢に食して頂きたい。
ドラゴン肉に合うハーブも、魔物の森から採取してきてある。
用意万端、仕上げを御覧じろ。この日のために熟成させたお肉です。
食事の下ごしらえは俺がやったが、仕上げはセバスに任せた。
今日の主役は、ミューゼア嬢だけでなく俺もだからね。
給仕られた肉を口に入れてみると、……よし美味しいじゃない?
「如何ですかミューゼア嬢、お味は。今日の肉は俺が下ごしらえをしたのですが」
テーブルの向こうで優雅にフォークとナイフを使っていたミューゼア嬢が、俺の顔を見る。おっと目が泳いでしまった。頑張って女性に慣れなきゃな。
と、俺が自分に言い聞かせていると、彼女は鈴のような声で感心したように笑った。
「ギリアムさまはご領主さまなのに、ご自分でお料理を?」
「は、はい。魔物狩りの後とか、領民と一緒に調理を始めたのが切っ掛けで」
あああ。声が上擦る。
早く慣れていかないとミューゼア嬢にも失礼だよなぁ。
「なんでも祭りにする街だから、俺もセバスも料理は得意なのです。食べたい物があれば遠慮なく言ってください、肉でも肉でも肉でも肉でも、俺が美味しく仕上げて差し上げますので」
「うふふ、ありがとうございます。このお肉も実にダイナミックな大きさで」
ゴホン、とセバスが咳払い。
(ギリアムさま。ご婦人に肉ばかり薦めるのは如何かと……)
背中越しに、小声で言ってきた。
なぜだ、肉とても美味しいじゃないか。もりもり食べられる。
「ここは魔物が多いので、魔物肉だけはよく獲れるのですよ。今日のこの肉はドラゴンの肉です」
「え、ドラゴンの!? 初めて頂きました!」
「おや、そうなのですか」
「都ではドラゴンの肉など流通しておりませんので……。とても珍重されているのですよ?」
驚き顔のミューゼア嬢。
そうなんだ、こっちでもまあ、多少は珍重されてはいるものの、ドラゴンよく襲ってくるからなぁ。
だけどそういうことなら、もっともっと食べて頂かないとな。
「どうぞどうぞ、お代わりはたくさんあります!」
「いえ、あの……、もうお腹いっぱいでして」
「遠慮は要りませんミューゼア嬢、どんどん食べてください。ほら私の分もどうぞ!」
ミューゼア嬢の皿にドラゴン肉を追加していると、セバスに背中を小突かれた。痛い。
(ギリアムさま、空気読んでくださいませ。もうミューゼアさまはご満腹のようですよ!)
え! そうだったの!? まだ全然食べてないじゃない。
こ、これが女性……? しょ、小食!
「失礼しました。たくさん食べて頂きたくて、つい!」
「お気になさらぬようギリアムさま。美味しかったですよ?」
「あ、はい」
やってしまった、話題を変えよう。予定より早いけど、ここは贈り物作戦を決行する。女性への贈り物は男の甲斐性だと聞き及んだのである。俺が吟味したこの品物、きっと満足して頂けるに違いない。
「じ、実はミューゼア嬢にプレゼントしたき物があるのです」
「まあ嬉しい。いったいなにでございましょう」
「これです」
見よ、俺の甲斐性!
俺は用意しておいた一メートルほどの長箱を食卓の上に置いた。
「これは……随分と大きい。重さもかなり……。開けてみても?」
「もちろんです」
「では失礼して。――え? あの、これ?」
「剣です。ここは魔物が多い土地ですので」
ごふっ! またセバスの拳が背中に!
(ご令嬢に剣をお贈りする男がおりますか! まったく、なにをゴソゴソ選んでいたのかと思えば!)
ひえ。セバスの声に怒気と呆れが入り混じっている。
俺またなにかやっちゃいました!?
だってこの土地はどうしても魔物が多いのだ。剣は必要じゃないか。
「け、剣が苦手なら俺がお教えますよ?」
「そういう問題じゃありません坊ちゃん! ミューゼアさまが目を白黒させてます!」
坊ちゃん呼びはセバスの感情が昂った証拠だ。
え、それほど?
「セバスさま、それくらいで。ギリアムさまのお気持ちは頂きました」
彼女がクスクス笑う。庇ってくれるなんて優しいな。
「す、すみませんでしたミューゼア嬢。良い剣を選んだつもりだったのですが、剣なんか女性向けではなかったのですね」
「いえ、大丈夫ですよギリアムさま。私、剣を振るのは好きですから」
「え?」
「少し、中庭に出ませんか?」
促されて、俺たちは中庭へと移動した。
俺が贈った剣を、ミューゼア嬢は握っている。
「それでは失礼しまして」
彼女は剣を構えたのだった。




