力になろう
「悩み? なんだよそんなことがあるなら、俺たち力になるぞ?」
「嬉しいことを言ってくれる。……ああでもさ、これはウチの事情だから」
遠慮がちな顔をするユーノスに、俺は笑いかけた。
「出会った初日でなにを言うのか、と思われるかもしれないが、俺はおまえを気に入った。強引にでも力を貸して、恩を売りたい」
「はは、ギリアムは正直で面白いな。俺も、キミみたいな人は気持ちが良くて好きだよ」
「だろう? 俺たちは良い友達になれると思うんだ」
俺の言葉に、ユーノスがクスリと笑う。
「……良いのかな、世話になっても」
まだ遠慮の残る顔で俺たちを見たユーノスに、ミューゼア嬢がちょっと申し訳なさそうな顔をしてみせた。
「ギリアムさまのお友達は私の友達、URとか言っていた自分を情けなく思います。是非ともお力にならせてくださいませ、ユーノスさま!」
「ありがとうございますミューゼアさま」
そう言って頭を下げた彼が語り始めたのは、彼の父のことだった。
ベルクラウス商会の現主人である彼の父は病魔に侵されていて、いつ死んでもおかしくない現状なのだと言う。
「俺は商会を継ぐことで、父を安心させたいのですが……」
その為には、父を唸らせる仕入れをしなくてはいけないのだという。それがユーノスが商会を継ぐために父から課せられた条件。
ユーノスは父を唸らせることが出来る品を探すため、旅から旅を続けていたとのことだった。
「なるほど。お父上を唸らせる仕入れ、ですか」
ミューゼア嬢が眉をひそませて、顎に手を置いて考え込む。
唸らせる仕入れ、ふーむ。
「ユーノスの父君は、どんな方なんだ?」
「というと?」
「いや、あるだろう? なにを好む方なのか、とか、なぜ商人をしているのか、とか。唸らせる為に考えるべき、ツボというものが」
「ああギリアム、そういう話なら……」
ユーノスの父君は、常々彼にこう言い聞かせてきたらしい。『人を幸せにする商売で稼げ』と。
「幸せな未来から零れてくるお金を、お裾分けしてもらうのが良い商売人。……父の言葉だよ」
「素晴らしいことを仰るお父上なのですね」
ミューゼア嬢の笑顔に、ユーノスが困り顔で頭を掻く。
「はい。でも甘いわけではなくて、……むしろ厳しく。同情で商売することを許してくださらない方でした」
「あら」
「俺は良い顔したがりだったので、よく叱られていました。同情が生むのは甘えでしかない、って」
「とても厳しそうな!」
ひえ、と言った感じに、今度はミューゼア嬢が困り顔になった。
「うーん。その辺のエピソードはゲームでも細かく語られていなかった部分ですので、どうすればいいのか全く私にはわかりません。ギリアムさま、なにか良いお考えなどありませんか?」
なんか俺に話を振ってきたぞ。
うーん、そうだな。
「ユーノスは、そんな父君のことをどう思ってるんだ?」
「もちろん尊敬しているよ。儲け第一で黒い商売を行う商人も多い中、父さんは本気で綺麗ごとを貫いてきた。俺も、ああでありたい」
なんだ、それなら簡単じゃないか。
「わかったよユーノス、父君を唸らせる方法が」
「え?」
ユーノスは不思議そうな顔で俺の方を見た。その横で、ミューゼア嬢も目を丸くしている。
「わかったって……ギリアムさま、本当ですか!?」
「ああ」
たっぷりと、唸らせてやろうじゃないか。俺は二人に、ちょっとした構想を話してみたのだった。
●36 呼び寄せました
ライゼルは規模の小さな町だが、それでも当然中央広場くらいはある。
祭りなんかではだいたい人がここに集まるし、ちょっとした出店も出没する。
とはいえ旅人が寄ることの少ない我が領地、普段はそこまで活気に満ちているとは行かない。普段は。
今日は普段ではないので人だらけだ。集まった領民が、ざわつきながら広場の中央を眺めている。そこでは魔族たちが、その膂力を活かして荷物運びをしていた。
「ギリアム、この荷も積んでしまっていいのじゃろうか」
「ああ。どんどん運んでしまってくれガリアードレ、レン草は人気らしいから」
「ほいほいっと。わかったのじゃ」
ガリアードレは案外丁寧な様でレン草が詰まった箱を置くと、領民の若者に向かって笑顔で手を振った。
「ほれほれ、次を用意するのじゃー!」
急かされている若者も楽しそうにガリアードレに従い、
「さすがっすガリアードレさま。俺、前の武闘大会以来ファンなんですよ。身体小さいのに、ホント力持ちですね!」
「ふふーん、当然じゃ。小さいは余計じゃがの」
「す、すみません!」
「カカカ! だが許す、ファンの声は大事じゃからな! もっと褒めてもよいのじゃぞ?」
それを聞いた子供たちが「ガリアードレ、かっこいー!」と声を合わせると、彼女の上機嫌は最高潮。凄い勢いで荷物を運び始めた。
「かっこいいじゃろー!」
単純な奴だよなー。
だけど、そんなガリアードレのことを俺も好ましく思う。
「ははは、負けてられませんなギリアムさま。私も一気に、と」
身体の大きいデカールが、さすがの迫力で荷物を運んでくれる。一気に10箱両手に抱えて突進だ。捗る捗る。
「ガリアードレさんもデカールさんも、凄い身体能力ですね」」
と、これは俺の横に立っているユーノスの呟きだ。
荷物をチェックしながらの彼が、驚きを隠せないといった様子で首を振った。
「うーん、でもまさかこんなに載せることができるとは……。魔法の力で安定させられるといっても、これはヴェガド殿の身体の大きさがあってこそ」
領民がざわざわと眺める広場の中央に鎮座しているのは、二十メートル級の大ドラゴン。鋼黒竜ヴェガドだった。
「すげー、こんな大きなドラゴン初めて見た」
「おかーさん、近くで見たーい!」
「ダメよ。皆さんの邪魔になっちゃうから」
「えー」
領民が楽しそうに騒いでる。みんなもっと怖がるものかと思ってたんだけど、全然安心してるみたいで拍子抜けだ。どうやら俺を信頼してくれての結果らしいけど、もーちょっと危機感持ってくれてよかったんだぞ?
ワイワイと領民の視線に晒されていたヴェガドが、どことなく恨めしそうに俺を一瞥。
「ぬぬぅ、これではまるで我が晒し者みたいではないか」
「いや人気者だと思うぞ?」
「ありえぬ、本当にありえぬ……。確かに我は、助けが必要なら呼べと貴様に告げたが、ギリアム」
「この大量の仕入れ品を素早く一気に運べるのは、おまえしかいない!」
「よもや呼び出しの我が竜鱗、こんな用件で使われるとは!」
横からミューゼア嬢が出てきてヴェガドの奴を宥める。
「済みませんヴェガドさま……ギリアムさまがインパクトも欲しいと仰るんです」
「巫女よ、巫女よ……、いや申すまい。これもきっと何かの定め」
「「申し訳ありませんヴェガドさま(殿)」」
ミューゼア嬢とユーノスが言葉を被らせつつ謝罪してる。
「別に謝る必要なんかないのに、これは適材適所というものさ」
「はは。ギリアムらしい」
苦笑してユーノスは続けた。
「それにしてもギリアム」
「ん? なんだ」
「こんな町……初めてだよ、人間と魔族が一緒になって笑ってて。そこにドラゴンまでが居る。みんなさ、わだかまりなく笑ってるんだ。それがさ、本当に気持ちいい」
微笑むユーノスに、ミューゼア嬢が近づいてきて笑顔を向けた。
「ライゼルの皆さん、素敵ですよね。私も初めて見た時、びっくりしました」
「はい……なんか、胸が熱くなります」
まー悪い光景じゃないってのは、俺にもわかる。
楽しくやれるのが一番だ、住む者が笑っていける領地作りを目指したい俺ではあるのだった。
「ユーノスさーん。この商品でシメですー」
「ありがとうございますレグノアさん、助かりました!」
「いえいえ。今後も是非フリューゲント商会をご贔屓に!」
ライゼルの商人にもうまく噛んでもらえたし、準備は万端。
「よーし! じゃあユーノス、いっちょ父君を唸らせてこい」
「ああギリアム、行ってくる。皆さんありがとう!」
ユーノスはガリアードレたちにも手を振ると、ヴェガドの背に飛び乗った。
ヴェガドが翼を広げ、広場に風を巻き起こす。
「頼んだぞヴェガド」
「ふん、竜遣いの荒い」
背に大量の交易品を積んだ竜と共に、ユーノスはライゼルを後にしたのだった。




