ユーノスの売り口上
ユーノスがこの場で行商を始めることとなった。
彼が馬車の荷を解き始めると、「わっ」と周りの領民たちが湧く。
皆にスペースを少し開けて貰い、俺も手伝っての店開きが始まった。町の正面入り口に陳列されていく様々な売り物たち。中には見たこともないような物も混ざっていた。都で人気のものなのだろうか?
見てたら、用意を手伝っていた俺までワクワクしてきたぞ。
そろそろ準備が出来たかな、と思った頃、突然ユーノスさんが馬車の荷台に飛び乗った。
「さあさ、皆さん! 寄ってらっしゃい見てらっしゃいライゼルの熱き民よ、いやすでに集まってくれてるな!」
そして両手を大きく広げると、威勢の良い声を張り上げ始めたのである。
芝居掛かったその様子に、領民たちが「おお!」と湧いた。俺はといえば、売り物の麻布を手に思わずポカンと間抜け顔。なんだユーノスさん、急にどうしたんだ?
「見て御覧じろ、聞いて驚け! 都の市場を沸かす逸品が、この地のライゼルに上陸だ! 商会が羨む上質な絹布、剣士の命を預ける鋼の短剣、そしてほら、――この輝く香油! 塗れば異性の心を鷲づかみ、都の貴族すら振り返る!」
ユーノスさんが香油の小瓶を掲げると、おばちゃんが「ほお、そりゃ娘の婿探しにいいね!」と手を叩く。子供たちが「キラキラしてる!」と目を輝かせながら寄ってきた。領民の輪がさらに広がっていく。
凄いな、ユーノスさんが笑うと皆も笑う。
驚いていた俺も、なんだかまた楽しい気分になってきた。こんな売り口上を聞くのは初めてだ、威勢が良くて引き込まれてしまう。
「でも高いんだろう? 香油なんてさ」
誰かが言った。
「あはは、まあ高い。だがこの俺、旅商人ユーノス、ただ高いだけの物を高いまま売ろうとなんてしていない。ここだけの話だが、特別な仕入れルートを通じてるお陰で、だいぶお得な提供価格になっているんだ。今なら一瓶の価格て二瓶提供、二瓶一気にご購入頂ければ、五瓶の提供! こういう物は長く使ってこそ意味のあるものだからね!」
つまり相場の半額以下で提供ってことか?
それが本当なら安いのだろうな。俺はポツリ、麻布を荷台に置きながら突っ込んだ。
「だけど俺たちは相場をあまり知らないからなぁ。言われるままに信じたら、良いカモになってしまいそうだ」
「ハハハ、ギリアムさまのツッコミ、耳が痛い! さすが領主さま、しっかりしておられる」
ユーノスさんは愉快そうに笑って俺の方を見る。
「だが聞けライゼルの民よ! 俺はここの町に来るときに、都でも見たことがないほど立派な石造りの街道を通ってきた。そんな道を造る町の民だ、売り物の良し悪しなどスグに理解してしまうと思ってる。ナメた商売をしようなんて考えていない」
領民たちが「当たり前だ、ナメた商売なんかされてたまるか」と笑う中、誰かが声を上げた。
「ユーノスさんや、ウチの街道、そんなに凄かったのかい?」
「凄いも凄い! 綺麗に平らに敷き詰められた石の道路が広々と! 馬車がすれ違えるほどの本道があり、その両脇にはきっと、旅人用の道なのだろうねぇ細い道が完備されている。しっかり側溝も通っていて、ありゃあ大雨が降っても水ハケは万全だ。未来で設計された道かと、俺は思ったね」
ミューゼア嬢の考案、設計。うーん、そこまで褒められてしまうか。あの人、さすがだな。……なんて俺が思っていると。
「さすがギリアムさま、そんなすごい道を造ってしまうなんて……!」
領民がざわつきながら俺に注目する。これは頭を掻くしかない。
「いやあ、ミューゼア嬢の発案設計だよ、俺は石を運んだだけ。石の敷き詰めも、力がある魔族の彼らが頑張ってくれたお陰だし」
「つまりギリアムさまを中心に集まった方々が、お力を合わせて成した業じゃないかい!?」
「そうそう! ミューゼアさまの頭脳がなければ、その道は出来なかった。ギリアムさまが魔族の彼らと懇意にしていなかったら、それもまた道を造れなかった。結局はギリアムさまの行いの結果だよ!」
わー、と盛り上がる領民たちだ。いや照れるが。照れちゃうが。
俺はユーノスさんの方を見て、助けを求めた。彼は笑って続けた。
「領民に愛されている領主を見ると、俺も心が安らぐ! こういう町とは友好的な関係を紡ぎたくなるのが商売人ってもんさ! なんでこんな良い町が、これまで影に隠れていたのか!」
「この辺は魔物だらけだったんですよ、つい最近まで」
「ほうほう! 確かにその話は耳にしたことがある。ライゼル領は危険で不毛、魔物だらけで行商は命がけ、近寄らない方がいい、と。――そんな町に、いったいなのがあったのか!」
あれ? その辺の事情は町に来る前に話しておいたと思うが。
簡潔に、魔物が集まる原因になってた古竜を追い出したから、って。
なんでまた聞く? しかも俺ではなく、領民たちに向かって。
「ギリアムさまが、魔物の森から『鋼黒竜ヴェガド』を追い出してくれたからだぜ!」
「そうそう。だから減ったんだ、魔物が!」
領民の声に、ユーノスさんがハッとした顔を作った。
相変わらず芝居がかっているポーズのまま、ショックを受けたようにヨロヨロと御者台の上でよろめいて。
「なん……だって? 鋼黒竜ヴェガドを追い出す領主さま……。おおお、そんなツワモノが治める町が、ただの町なはずがない! ライゼルの民よ、俺は光栄だ。この町で商うなら、運気は上がる、財も積もる! さあ見て御覧じろ、この鋼の農具! 鉄不足のライゼルにぴったり、ギリアムさまの拳にも負けぬ頑丈さだ!」
「おお! 鉄だ! 農具だ!」と飛びつく農夫たち。皆が「やるな、商人!」と拍手喝采した。ユーノスさんは俺にウインクして、さらなる口上を繰り出す。
「まだまだ終わりじゃない! 聞けば、この肥沃な田畑、レン草が山ほど採れるとか! 知っておられるか、都じゃ貴族が金貨を積む絶品だ! 俺が商会に持ち帰れば、ライゼルは交易の星になる! さあ、この絹布、香油、農具、早い者勝ちだ!」
子供が「レン草、美味しいよね!」と叫び、おばちゃんが「ユーノスさん、絹布で服作るよ!」と手を上げる。俺もつい「レン草なら倉庫にたっぷりあるぞ!」と乗っかる。
「なんと、倉庫にたっぷり!? ギリアムさま、さすが辺境の覇者! よし、特別だ。レン草と農具の交換、今日だけ相談に乗るぞ! ライゼルの未来、俺と一緒に掴め!」
覇者ってなんだよ。ただの領主だけど。
俺は苦笑しながらツッコむが、領民は「ギリアムさま、かっこいい!」「商人、最高!」と大騒ぎ。周囲は熱気で包まれた。
「ハハハ、ギリアムさま、こりゃ商会に話すネタが尽きませんな! さあみんな、売り物は売り切れ御免だ! 見てってくれ見てってくれ」




