おいでませライゼルへ
「なんと! なんとなんと肥沃な土地!」
森を抜け、ライゼルの田畑を目の前にしたユーノスさんは満面の笑みで御者台から腰を浮かせた。
「まさかこんな辺境で、このように素晴らしい光景を目に出来るとは!」
「ミューゼア嬢も最初これを見たとき驚いていたっけ。ここ、そんなに凄いの?」
「凄いもなにも……、西の大穀倉地帯にも引けを取らない景色ですよ。いやもしかすると、こちらの方が凄いかも?」
ふーむ。あまり外に出ていない俺にはピンとこない。
魔物の襲撃が多かったからな、ウチは。田畑を広げても広げても、最終的な収穫はタカが知れていたんだよ。食べてくために開墾しまくってたらこうなっただけだ。
まあ魔物が居なくなった今年は、突然に収穫量が倍増して困っているわけだけどね。
でもまあ、こうして驚いてくれるとなんか気持ちは良い。俺が褒められてるような気にもなってくるくらいだ。気をよくしてユーノスさんに今年の収穫の話をしていると、彼はまたビックリ顔になり。
「レン草が余ってる!?」
「え? あ、はい」
そりゃもう、たーっぷりと。急に倍増しちゃって、むしろ困っていますが。
「都では貴重な食材として珍重されているのに……」
「美味しいですよね」
「さらっと言わないでください! ああ、これは市場が楽しみだ」
確かレン草も魔族領経由で回ってきたんだよなぁ。
そうかあれ、他領だと貴重品だったのか。ウチの商人さん――レグノアの奴も、きっとこれで儲けたりしてたんだろうなぁ。すまん、おまえの儲け話を旅商人にバラしてしまったよ。
左右を田畑に望みながら、馬車が町の中に入っていく。
途端、珍しそうに領民が寄ってきた。一人、また一人と集まってきて、早くも十数人。その中のおばちゃんが、俺に声を掛けてくる。
「珍しく馬車がやってきた、と思ったら……あれま、ギリアムさま?」
「森の手前で乗せて貰っただけだよ。こちらはれっきとした旅商人、ユーノスさん」
「おお? ということは」
と反応したのは、おばちゃんの横に居たおじさん。俺はニヤリと笑い、
「そう。いま開設中の新街道を伝ってやってきた、新生ライゼル初の訪問者だーっ!」
ガッツポーズをして見せる。
すると集まった皆も、「わーっ!」と声を上げた。
「初商人さんかい!? めでたいね!」
「魔族のあいつら、もうそこまで街道を作ったんで?」
「すげーな、着工からまだ二ヶ月も経ってないのに」
いやまだ地ならしだけの状態だけどね。
たまたまユーノスさんが好奇心旺盛だったから、道にもなってない道を伝ってきてくれただけ。
「ミューゼアさまが来てからこちら、良いことばかり起こるねぇ」
「あの方を嫁に貰ったのは、ギリアムさまのファインプレイですな」
まだお嫁さんではないけどな! まあ、いずれは確かに、ごにょごにょ。
「にいちゃん、商人のにいちゃん。鉄あるかい、鉄! ここじゃ、慢性的に鉄が不足していて! 農具を新調するのにすら困ってんだ」
「馬車の積み荷は売り物か!? 露店を開いてくれるなら頼むよ!」
俺がテレている間も、彼らはずっと嬉しそうな顔。馬車の周りに、さらに人が増えて来た。
「うわぁ、囲まれてしまいましたよギリアムさま」
「仕方ない。ここで軽く店を開いてしまったらどうです? 町の商会には俺の方からあとで連絡しておきますので」
「そうですか? ふむむ、でしたらちょっと場所をお借りしてしまいますか」




