魔族が来た
苦笑しながら部屋に戻ってくるセバス。
「ガリアードレさまがお怒りです。早速こちらに顔を出す、とのことでした」
「お怒りです、って……ギ、ギリアムさま!? いったいセバスさまに何をお伝えさせたのですか!」
大したことじゃない。
「こないだ鋼黒竜ヴェガドと戦って奴を森から追い出したわ。これで俺の方が、おまえより上だよなって」
悔しかったら魔族何人か連れてこっちに来い、ウチの土地開拓を手伝ってみろ――と締めくくった。
「前後の繋がりがなさすぎませんか!?」
「いいんだミューゼア嬢、ガリアードレは単純だから、これでちゃんと手伝ってくれる。なあセバス?」
セバスは表情を殺して頷くと。
「そうでございますなぁ。たぶん、手伝いに参加してくださるかと。それも、ご自身が自ら先頭に立って」
だよな。セバスも俺と同じ見解らしくてなによりだ。
なんか楽しくなってきたな、ガリアードレと会うのも久しぶりだし。
「さっきも言った通り、魔族はガリアードレの強さに信仰にも似た物を持っている。奴自身が率いての仕事で、妙な真似をすることはないよ」
ミューゼア嬢とレグノアは、しばらくあっけに取られていたようだったが、やがて俺の主張の優位性を理解したようだ。二人で頷きあって意見を擦り合わせ始めた。
「確かに……、他領に流れて仕事をしようなんて者は、人間だとあぶれ者が多いものです」
「そうですね、残念ながらミューゼア嬢の見解が正しいかと。そう思ってみれば、王の下で統率された魔族の方が受け入れリスクは少ないかもしれません」
「しかも一人あたりの労働力が高く、賃金も平均的に抑えられる……」
「労働力が高いから、最初の受け入れは少数で様子を見てもいける」
「「理想的、かもしれません」」
二人が俺を見た。
理解して頂けたようでなにより。俺は晴れ晴れとした気持ちで胸を張ってみせたのだった。
「それじゃ、あいつらが到着する前に突貫で宿泊施設を作ってしまおう」
◇◆◇◆
そして一週間後、魔物の森の前でガリアードレの到着を待っている俺とミューゼア嬢がいた。
「ガリアードレさまご一行は、今日こちらに到着するのですよねギリアムさま」
「たぶんね。昨日使い魔がそれを伝えにきたから」
荒涼とした大地に、からっ風が吹いている。
この街道を、俺たちはこれから整備していく。
「……私が初めてギリアムさまとお会いしたのも、確かこの場所でした」
「ああそうでした。確かあのとき、ミューゼア嬢は俺のことを怖がっておられましたね」
「はい。どんな残虐な方かと、絶望しておりました」
当時を思い出してなのだろう、クスリと笑って彼女は柔らかい目をこちらに向けた。
「ですが私を待っていたのは、私の運命を変えてくれる素敵な原作ブレイカーさんでした。なにがどうなるか、未来なんてわからないものなんだ、と私に一筋の光明をくださった」
「未来は変えられる。それを俺に教えてくれたのはミューゼア嬢、あなたなんですけどね」
俺も彼女に合わせて笑った。
そして、今胸の内にある思いを口にする。
「実は今、もう一つ未来を変えたいと思っているのです」
「と、おっしゃいますと?」
「ガリアードレの治める魔族領は、ウチとは比べ物にならないくらいに今でも過酷で、貧民が多いと聞き及んでいます。それを変えてやりたい。その為の助けとして、彼らの一部を、我が領で恒久的に受け入れられないか、と思っているのですよ」
「魔族を……移民として受け入れたい、と仰るのですか?」
「はい」
俺は頷いた。
「ミューゼア嬢の予知(?)では、魔族が人間を滅ぼしてしまうルートもあったらしいじゃないですか。それって、やっぱり生きるのが大変だから、生まれてしまった可能性だと思うのですよね」
それが無ければ、絶対に未来は変わるはずだ。
俺の知っている魔族たちは、皆気持ちがいい奴らばかり。彼らが、良い環境で生きていけるように手助けをしたい。
「それは、同情からですか?」
「まさか」
俺は笑った。同情からじゃない、その方がきっと俺が楽しく生きれるからだ。
ガリアードレと、気楽に腕を競い合いたい。
それがまだ出来る今を、もっと伸ばしていきたい。
鋼黒竜ヴェガドとの戦いは面白かった。
俺はあのとき、思わず最後まで決着を着けたいと考えてしまったが、もし奴をあそこで倒してしまっていたらどうなっていたか。
その先に、腕を試せる相手が一人居なくなるだけだ。
あとになって、このことに気がついた。
この世界にいっぱい居るであろう強い奴らが、ただ『戦いのことだけ』を考えていける世界なんてのは、なかなかに余裕があって洒落てると思う。
うちの領民にも強い奴はけっこう多い。
祭りで打ち解けられてるんだ、実際魔族の連中とも気が合うと思うんだけどなぁ
「というわけで、俺は俺の幸せのために、『見える範囲』の生存環境を良くしていきたいのですよ。余裕ができて初めて人は人に優しくできるんじゃないかなって」
ウチの領民には、優しさを持った人間であって欲しい。
行きつくところはそこなのかもしれない。
「ギリアムさまは、びっくりするくらいお甘い方なんですねぇ」
クスクスと笑われてしまった。
「い、いや! 必要なら俺は幾らでも戦いますし、冷徹にもなれる男ですよ!? ほら!」
キリっと冷徹フェイスを作ってみせたら、もっと笑われた。
「良いんです。そういう生ぬるい考え方、私は好きですわ。私の魂は平和にまみれた国のもの、メイドインジャパンですし」
「メイド……さん?」
「こちらの話です」
よくわからないが、よくわかった。
どうやらミューゼア嬢は俺の考えに賛同してくださったみたいだ。
「大変な道だとは、思いますけどね」
「そうですね、ミューゼア嬢」
「特に、ライゼル領と魔族との協調をセルベール家が知ったとき、どう動いてくるか。原作にないルートなので、私にもわかりません」
「あー」
そうか、彼女の言う『破滅エンド』。それの回避も考えなきゃな。
と、そのとき街道の彼方に、大きな人の影が見えてきた。
頭にツノがある。魔族だ。
「おっと、来たみたいだ」
「あれ、ですか? 人よりだいぶ大きな身体の方がいらっしゃるようですが」
「そう、魔族には色々な体形の奴がいるんだよ」
――ガリアードレ一行が、やってきたのだった。




