ギリアムの妙案
鋼黒竜ヴェガドを森から追い出したという話を聞いたレグノアは、考え込むように腕を組んだ。
「だから森も平和になっていたというわけですな。ううむ」
「そうなのですよ」
ミューゼア嬢が俺を一瞥した後、話を進めますとばかりに小さく頷いた。頼んだ、全面的にお任せだぜ。
「お分かり頂けましたかレグノアさま。魔物も減り鋼黒竜も居なくなったあの森は、このライゼルにとって資源の宝庫となることでしょう。将来的なその開拓も見据えたら、まず他領との交易ルートを開くことがどれだけ重要か」
「はい。それがまさに、いま私がここに座っている理由」
レグノアが胸に手を当てて、ひとまず畏まった。
「ギリアムさま、ミューゼアさま。我がフリューゲント商会に、街道の整備をお任せ願えませんか」
「いいよ」
俺は軽く答えた。
「いえ、難しい案件かとは思いますが是非とも検討を――って、ええ!? 即決!?」
「もともとそこには異存はないんだ。条件はミューゼア嬢と煮詰めて貰う方向で」
「あ、はい」
ちょうど昨晩、セバスとミューゼア嬢を交えて相談はしてたんだ。
この町の商会は小さい物が一つあるだけ。つまりは今ここにいる彼の、フリューゲント商会のみなわけで。
そこに案件を持っていくこと自体は問題がない。
あとはどこまで彼らにお金を出させることが出来るか、という話になってくる。この町における商売の窓口役を任せる代わりに、ぶっちゃけ全額負担させたい。
公共事業としてウチから出金することも考えたんだけど、どうせ俺たちだけでは捌ききれない仕事量になるのは目に見えてる。ならば利権を餌に、フリューゲント商会を動かす方が無駄もないというものだった。
「なるほど、我が商会が窓口役に……」
「代わりに街道の整備に掛かる金銭の負担を。悪いお話ではないと思いますが」
「ふうむ。負担と仰られると、ミューゼアさまのお考えでは、いかほどを?」
色々と話をしてるなぁ。
こういうのを任せてしまえるのは、本当にありがたい。ミューゼア嬢は頼りになるな。
「そうですねレグノアさま……これくらいは最低限」
「それは厳しい!」
「未来への投資とお考えいただければ、と」
「その未来とは、ライゼルの未来でしょうか?」
「ライゼルとフリューゲント商会、共にある未来の為ですわ」
細かい金銭勘定は、俺じゃあ時間が掛かる。
そんなのはセバスやミューゼア嬢に任せてしまうのがいい。
ミューゼア嬢とレグノアの交渉を、横から無責任な気持ちで眺めるだけの俺だった。
しばらく二人のやりとりは続いたが、どうやらバランスを取ることに成功したようだ。少し悔しそうな顔をしながらも、そこそこは満足げな表情という、表現しずらい顔をしたレグノアがミューゼア嬢と握手をした。
「まいりましたな、ミューゼアさまは良い商人でもおありだ。絶妙なラインをついてくる。このような交渉術は、どちらで?」
「第一学園では何故か喧嘩の仲裁などを仕切る経験が多くありまして。そのときに学びました」
「ほほう、さすが都の第一学園きっての才媛と称えられたお方。おみそれいたしました」
こうしてミューゼア嬢と良い感じに話をまとめて帰ったレグノアだったが、二週間後にまた屋敷へとやってきた。困り顔で頭を抱えて。
「人手が集まらない?」
「そうなのです、ミューゼアさま」
街道整備のための人員が集まらないのだそう。
ライゼルの町は山のように出来た初夏の野菜を収穫している時期だ、間が悪かったらしい。
「なるほど……。ではレグノアさま、多少の賃金上昇は受け入れる形で、他領から人を集めるというのは?」
「もちろんそれも試みましたが……」
ライゼルから魔物が減ったということを信じて貰えず、半端ではない賃金を要求されることになってしまったらしい。
「確かに他領の方々では実感もないでしょうから、理解して貰うのが難しいというのもわかります」
「わかって頂けますか、ミューゼアさま。それに、他領から人を集める場合は宿泊所も作らないといけませんから」
「さらに相場よりお賃金自体が高いとなると、予算のメドすら立たないという感じですか」
「はい」
二人は共に腕を組んだ。
なるほどね、確かにこの時期はウチだと人手が足りない。他領の奴らがライゼルの変化を理解できるとも思わない。
安い、とは言わずとも適正な賃金で雇うことのできる、有能な働き手かぁ。
「困りましたね……。ギリアムさま、なにか良い案はありませんか?」
「あるよ」
「そうですか、そうそう良い案など――え?」
「あるよミューゼア嬢、悪くない案が」
「ええっ!?」
ミューゼア嬢が少し飛び上がるように驚いた。相変わらずオーバーな人だ。
「あるのですか!?」
と、これは同時に驚き顔を見せたレグノアの声。こっちは一見冷静そうに見えて、身を乗り出してきている。うーん食いついてるな。あるとも、あるぞ。
「ええと、……魔族に手伝ってもらう、なんて案はどうだろう?」
俺が言うと。
「「は?」」
二人は同時に目を丸くしたのだった。




