口頭模擬戦闘
「貴様たちには借りがある。不殺を貫くことができた借り、だから乗ってやろう娘よ。どう我と戦うというのだ」
「口頭模擬戦闘で」
なにそれ? 初耳。ヴェガドもそうだったらしい、すぐに聞き返した。
「口頭模擬戦闘? それは、どういうものだ?」
「はい。口で戦闘の行動を言い合います、私が使うユニットはギリアムさまです。その行動が適正に可能かどうかの判断が揉める場合は協議にて成否を決めます」
「……ふむ、面白い。やってみようじゃないか」
「本気の戦いでお願いします」
「ふふん、生意気なことを言う娘だ」
ミューゼア嬢とヴェガドの戦いが始まった。
大丈夫なのか? と思っていると。
彼女は一瞬俺の方を振り向き、
「大丈夫です。すぐ終わりますよ」
そう言った。すぐ終わる? どういうことだろう。
俺が目を丸くしていると、彼女は大きな声で言った。
「一手。ヴェガドさまの用意している、『鉱鱗爪撃』を避けざまに大地を揺るがす一撃」
「ふむ。……先の戦いの初手を見ておっただけあるな、その攻撃受けよう。それでは次はこちらの一手であるか、さてどうするか」
思案するヴェガド。そのとき、ミューゼア嬢が声を出した。
「そちらの攻撃は、突進攻撃でございましょう? ヴェガドさま」
「……なに?」
「違いますか。違う予定だったのでしたら、そう言ってくだされば」
「いや……、突進するつもりであった」
「こちらの二手。突進攻撃を読んで大地を揺るがす一撃」
なんだこれ? なんか様子がおかしい。
なんで彼女は、ヴェガドの行動を読むことができたんだ?
「むむぅ、では次の一手は……」
「大地を揺るがす一撃を警戒した羽ばたきで距離を取ろうとなさいます」
「ぐぬっ!?」
「違いますか?」
「……違わぬ。その通りだ」
首を落としたヴェガドに向かって、ミューゼア嬢は朗々とした声で告げる。
「三手。羽ばたきで距離を取ろうとするヴェガドさまの行動を先読みして、距離を詰めた上で大地を揺るがす一撃」
俺は言葉を失った。ヴェガドもだ。奴は喋らなくなった。しばらくして、ミューゼア嬢が口を開く。
「四手。|火炎の息を吐く前に大地を揺るがす一撃」
ヴェガドも俺も、動けない。ミューゼア嬢だけが口を開いて続けた。
「五手――」
続けた。
「六手――」
続けた。
「七手――」
続けた。森の広場に、滔々と響き渡るミューゼア嬢の声。俺はいつの間にか、それに聞き入っていた。
「八手――」
そして。
「九手。最後の力を振り絞って、死力技『最終戦争』を繰り出そうとするヴェガドさまに――」
「何故だ!」
鋼黒竜ヴェガドが吠えるように叫んだ。
「何故貴様は、我の考えた行動の先を全て読み切ることができる!?」
彼女の予測は全て当たっていたのだ。
言葉も出ない。
「しかも『最終戦争』は、我が死をも賭す最大の技、何故知っておる!?」
「言ったはずですよ。私は『この世界のことなら大抵なんでも知っている』と」
「それは……どういう意味なのだ」
「ゲームの攻略法――プログラムされた行動パターン、と言ってもヴェガドさまにはお分かりにならないでしょう。今回のは予知、とでも思って頂ければ。あなたが本気になったときの攻撃を、私は知っています」
「予知……、まさか貴様、いえ、あなたは……予言の巫女?」
明らかに動揺したヴェガドが、巨体を一歩下がらせた。
「そのような者ではありません。ただ運命に抗おうとする、小さな娘です」
「間違いない……そうですか、あなたが」
ヴェガドが頭を地に伏せた。
「我は鋼黒竜ヴェガド、創造神カーの命によりあなたをこの地にてお待ちしておりました」
えええ。
ど、どういうことだ!?




