ミューゼアの交渉
ここから先は、彼女を守りながら戦う分だけ俺が少し不利かもしれない。
だがまあ、どうにかなるだろう。どうにかしてみせる。
――なんて、お気楽なことを考えていたら。
「なにを言っているのですかギリアムさま。言いましたよね、私は運命共同体だと」
「え?」
「危険なのは承知でついてきています。私も一緒に戦わせてください」
俺の手に回復魔法を掛けてくれていたミューゼア嬢が、俺の顔を見る。
俺は苦笑しようとして、身を正した。ミューゼア嬢が真剣な顔をしていたからだ。
真剣な申し入れには、真剣に答える必要がある。俺は諭すような声で言った。
「気持ちは嬉しいですが、あなたではこの戦いについてこれないと俺は思いますよ?」
「戦えます。言ったはずです、いざという時にギリアムさまを守れるのは、私だけだと」
「んー、なにかなさるおつもりで?」
「はい。見ていてくださいギリアムさま」
しまったな。興味が湧いてきてしまった。ミューゼア嬢がなにをなさるつもりか、気になって仕方ない。こうなると、俺は自分の欲求に勝てないんだ。
「わかりました」
俺は笑ってみせた。ミューゼア嬢のイイトコ、見ってみたい! ヒューヒュー!
「その、口笛になってない口笛はやめてください!」
はいすみません。
俺はその後、ミューゼア嬢に言われるがまま数歩下がる。
彼女は前に出て、鋼黒竜ヴェガドと対峙した。
「鋼黒竜ヴェガド。私の言葉を理解できているのでしょう? 喋ってみせたらどうですか」
え? ヴェガドが言葉を? 竜が?
どういうことだ、竜は言葉を発したりしない。ましてや人の言葉を理解する竜なんて――。
「……何故、我が人語を解することを知っている?」
って、えええ!?
ヴェガドが喋った。竜が人の言葉で喋った!
「私はこの世界のことなら大抵なんでも知っています。だから、あなたが『宝』を守るモノだということも熟知しているつもりです」
「……あながちデタラメを言っているわけではなさそうだ。聞こう、貴様は我になにを言おうとしてるのか」
「私たちは、たぶんあなたが食べたであろう『大黒魔石』の力に困っています。その魔石は、魔物を呼びよせてしまう。この土地が魔物だらけなのは、その魔石が原因」
ミューゼア嬢は語ったのは、要するに平和裏にこの土地から出ていってくれないか、という話だった。魔石を食べたヴェガドがここから去れば、魔石を壊さずとも――つまりヴェガドを倒さずとも、大黒魔石をこの地から排除できるから、という提案だ。
「残念だが人間の娘よ、それは出来ない。我はこの地に宝が現れるのを待っている身ゆえ」
そらそうだ。断られて当然だろう。
奴の断る理由には少し驚いたが、さておき横に置いといて、ミューゼア嬢はどうするつもりか。
腕を組んで二人のやりとりを聞くに徹していると、彼女は少し考えてこう言った。
「でしたら私と戦って貰います」
「貴様が? 我と?」
「はい。もし私が勝ったら、提案を受け入れてください」
「貴様に我と戦えるだけの力があるようには我には見えぬのだが」
激しく同意。ちょっと無理筋すぎませんかミューゼア嬢?
「私の力は戦闘力ではありません。『知っている力』です」
「なんだと? 『知っている力』?」
「はい。ヴェガドさま、ぜひ私の土俵での勝負をお願いします」
ヴェガドは何かを考えているようだった。
しばらく返事をせず、虚空を見続ける。
「……我は人の不殺を自らに課していた。それは、この地にいずれ現れる『宝』の信頼を得るため」
そう言って俺を見た。
「その枷を忘れて、つい戦いに夢中になり娘の存在を忘れて火炎を吐いてしまった。そこの人間が居なければ、きっと人を殺めてしまったことだろう」
わかっていた。別にミューゼア嬢を狙ってのことではなかったことくらい。
夢中になりすぎただけ。俺との戦いに。
力いっぱい戦うことへの誘惑は果てしない、その誘惑が、一瞬奴の自制心を超えてしまったわけだ。
「貴様たちには借りがある。不殺を貫くことができた借り、だから乗ってやろう娘よ。どう我と戦うというのだ」
「口頭模擬戦闘で」
ミューゼア嬢はヴェガドの目を見て、毅然とした態度で言ったのだった。
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