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第95話 謁見の前に

 ノアを見送った後。




「……ノア」




 小さく漏れた呟き。




「心配ですか?」




 隣でクラリスが尋ねた。




「……少しな」




 ソフィアは素直に答える。




 アリスは微笑みながら二人を見ていた。




「殿下が側に居ますから、トラブルは無いと思いますよ?」




「いや、トラブルと言うよりは……」




 ソフィアは言いかけて口を閉ざす。




「……何でもない」




「?」




 クラリスが首を傾げた。




 その時。




 ソフィアが何かを思い出したように顔を上げる。




「そう言えば」




「叔母上にも伝えておくか」




「少し出てくる」




「かしこまりました」




 アリスが一礼した。




 ---




 王城、武官棟。




 王国軍の高官達に執務室が与えられている区画。




 先代辺境伯であり、現在は王都で武官を務めるヘレナにも専用の執務室があった。




「夜遅くにすみません、叔母上」




 執務机に向かっていたヘレナが顔を上げる。




「それは良い」




「ただ急だな」




「お前と別れてから数週間程だろう?」




「実は……」




 ソフィアはノアの事、アウルの事、そして明日の謁見について説明した。




 話を聞き終えたヘレナは腕を組む。




「……成程」




「明日、陛下に報告するのだろう?」




「私も聞こう」




「助かります」




 ソフィアが頭を下げる。




「しかしまぁ」




 ヘレナが僅かに笑う。




「ノア」




「謎の男だな」




「……そうですね」




 ソフィアも小さく頷いた。




「お前、宿は?」




「いつもの宿か?」




「王城の貴賓室です」




「ふむ」




 ヘレナは立ち上がる。




「なら私も行こう」




「出来るだけ寝たいからなっ」




「……」




 ソフィアが黙る。




「何だ?その顔は?」




「い、いえ何も」




「連れていけ」




「承知しました」




 ---




 しばらくして。




 王城の迎賓区画。




 貴賓室へ戻る。




「戻ったぞ」




 アリスがすぐに立ち上がった。




「お帰りなさいませ、ソフィア様」




「世話になるぞ」




 ヘレナが言う。




「承知しました、ヘレナ様」




 アリスは柔らかく微笑んだ。




「ん?」




 ヘレナが視線を向ける。




「お前は確か……」




「お久しぶりです、ヘレナ様」




 クラリスが一礼する。




「クラリス・レオグランです」




「王城での辺境伯一行の世話係を任されております」




「あぁ」




 ヘレナは頷いた。




「クラリス・レオグランか」




「王太子の世話役だったな」




「左様です」




「私も世話になるぞ、クラリス」




「承知しました」




 ヘレナは満足そうに頷く。




「さて」




「私はもう寝るぞ」




「おやすみなさい、叔母上」




「うむ」




 ヘレナは早々に客室へ引き上げて行った。




 扉が閉まり。




 部屋に静けさが戻る。




「すまないな、クラリス」




 ソフィアが言った。




「いえ、問題ありませんよ」




 クラリスは穏やかに微笑む。




 そして思い出したように口を開いた。




「ソフィア様、アリスさん」




「寝る前に温かい飲み物でも如何です?」




「頂こう」




 ソフィアは頷いた。




 そして隣へ視線を向ける。




「アリスも良いか?」




「はいっ」




 アリスは嬉しそうに微笑んだ。




 ---




 しばらくして。




 卓の上に湯気の立つ茶器が並ぶ。




 王城の夜。




 窓の外には静かな月明かり。




 三人は穏やかな時間を過ごしていた。




 他愛のない話。




 道中の出来事。




 そしてアウルの話。




 時折笑い声が響く。




 平穏なひとときだった。




 ---




 やがて。




 カップの中身も少なくなり。




 夜も更けていく。




「そろそろ休みましょうか」




 クラリスが言う。




「あぁ」




 ソフィアは小さく頷いた。




 そして静かに窓の外へ目を向ける。




(明日の謁見……)




 脳裏に浮かぶのは一人の男。




 ノアではない。




 王国最強の騎士。




 レオニウス・レオグラン。




(老獅子はどう見るか)




 ノアという存在を。




 その正体を。




 そして、これから起きるであろう変化を。




 王城の夜は、更けていく。

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