第93話 王族の姉妹
王城の廊下。
「あっ、リリ姉っ! マリ姉っ!」
アウルが嬉しそうに声を上げた。
すると。
茶髪の女性がぱっと表情を明るくする。
「アウルっ、帰ってたのかっ」
勢いそのままに抱きつく。
「ただいま、リリ姉」
アウルも自然に笑った。
「しばらく中央島に滞在すると聞いていたが?」
「まぁ詳しいことは明日母上に報告するんだけどさ?」
アウルは軽く頭を掻く。
「そうだっ」
「リリ姉とマリ姉も来てくれよ、明日の謁見」
「謁見?」
リリアンヌが目を瞬かせる。
「あぁ、大事な報告がある」
「ふむ、ならば聞こうじゃないか」
そう答えた後。
ふと、マリアンヌがノアへ視線を向けた。
「ねぇアウル?」
「そちらの素敵な殿方はどなた?」
「あぁ、ノアだよ。俺の友達〜」
「まぁ、アウルのお友達?」
マリアンヌが楽しそうに微笑む。
リリアンヌも少し意外そうに目を細めた。
「ほう、アウルに友人かぁ」
「まぁノアについても明日詳しく話すよ」
「えっと……」
ノアが少し困ったように口を開く。
するとマリアンヌが優雅に一礼した。
「初めまして、ノア様」
「わたくし、アウレリウスの姉のマリアンヌ・ヴァルディアと申しますわ」
「こちらが双子の姉のリリアンヌ・ヴァルディアでございます」
「うむ」
リリアンヌも軽く頷く。
「アウルのお姉さんかぁ」
ノアはどこか安心したように笑った。
「えっと、ノアと言います」
「……初めまして?」
「あははっ」
アウルが吹き出す。
「お前、挨拶下手くそかよ〜」
「構いませんわ」
マリアンヌはくすりと笑い。
そのままノアの手を取った。
「ノア様、アウルと仲良くして下さって本当にありがとう」
「いえ」
ノアも柔らかく微笑む。
「僕の方こそ、アウルと友達になれて嬉しいですよ」
「ありがたいです」
「っ……」
アウルが少し照れ臭そうに視線を逸らした。
「まぁ、謙虚な方ね」
マリアンヌは楽しそうに笑う。
「では、わたくしともお友達になって下さらない?」
「アウルのお友達は、わたくしのお友達と変わりませんものね?」
「おいおいマリ」
リリアンヌが呆れたように声を漏らす。
「なんだその理屈は」
「急に言われてもノアくんが困るだろう?」
(そういやマリ姉は面食いだったなぁ)
アウルは内心で苦笑した。
「僕で良ければ」
ノアが微笑む。
その自然な笑顔に。
「――っ」
マリアンヌの胸が小さく高鳴った。
「ではアウル共々、これからよろしくお願いしますわね?」
両手で包み込むように、ノアの手を握る。
「ふむ……」
その様子を見ていたリリアンヌが、小さく唸る。
「ノアくん」
「失礼、ノアくんと呼んで良いだろうか?」
「構いませんよ」
「ではノアくん」
リリアンヌは真っ直ぐノアを見た。
「私とも友人になってくれないだろうか?」
「もちろん」
再び向けられる柔らかな笑み。
「っ……」
リリアンヌの胸も、不思議と騒いだ。
「で、では改めてよろしく」
少しだけぎこちなく、ノアと握手する。
(あれ? リリ姉もか?)
アウルがちらりと姉を見る。
「ところでアウルとノアくんはどこへ向かっていたんだい?」
「風呂だよ」
「姉さん達は?」
「私達も風呂だ」
「久々にマリと入ろうと思ってな」
すると。
マリアンヌがじっとノアを見つめた。
「ノア様、良ければご一緒――」
「それはダメだろっ!?」
リリアンヌが即座に止める。
「急に何を言ってる!?」
「……冗談よ」
マリアンヌは肩を竦めた。
「はぁ……失礼したね、ノアくん」
リリアンヌが頭を下げる。
ノアはただ穏やかに微笑んだ。
その空気に。
リリアンヌは少し不思議そうに目を細める。
「……不思議だね、君は」
「なんだか落ち着く」
するとアウルが笑う。
「いや、そういう奴なんだよノアは」
「?」
「まぁ明日分かると思う」
アウルはそう言って歩き出した。
「とりあえず風呂行こう、風呂っ」
「そうだなっ」
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王城、大浴場前。
「ノア、俺らはこっちだ」
アウルが男湯を指差す。
「へぇ、男女で別れてるんだね」
「まぁ来賓含めて男もそれなりに居るからな」
アウルは扉を開けながら笑った。
「王都の宿とか、後は宿町の宿あったろ?」
「貴族が利用する所だと、男女別の浴場が割とあるんだぜ?」
「そうなんだ」
「おうよ」
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男湯。
湯気が立ち込める広い浴場。
「ふぅ〜……」
ノアが肩まで浸かり、息を吐く。
「どうよ?」
アウルが隣で笑う。
「王城の風呂は?」
「広いし豪華だねぇ」
「王城だからなっ」
得意げに胸を張るアウル。
しばらく静かな時間が流れ。
ノアがぽつりと口を開いた。
「アウル」
「なんだ?」
「僕と友達になってくれてありがとう」
「……」
アウルの動きが止まる。
「アウル?」
「……何でもねぇやいっ」
アウルはそっぽを向きながら、少しだけ照れ臭そうに笑った。




