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第92話 王城の夜

 王城、客室区画。




 ソフィア達は一時的に用意された待合室で待機していた。




「やっぱここに居たか」




 軽い声と共に、扉が開く。




 戻って来たアウルだった。




「ありがとな、クラリス」




「殿下」




 クラリスは静かに一礼する。




 そして小さく溜め息を吐いた。




「まず客人を案内するのが先ですよ?」




「すぐ飛び出して行ってしまわれるのですから……」




「悪い悪い」




 アウルはまるで反省していない様子で笑う。




 そしてすぐに話を切り替えた。




「んでよ?」




「許可取れたから貴賓室行くぞ〜」




「貴賓室?」




 ノアが小さく首を傾げる。




「まぁ見りゃ分かるって」




 アウルはそのまま歩き出した。





 ---




 王城、迎賓区画。




 重厚な扉の前で、アウルが立ち止まる。




「ここだ」




 扉が開かれる。




 広い空間。




 豪奢な絨毯。




 落ち着いた調度品。




 街の宿とは比べ物にならぬ格式があった。




「……豪華な部屋だね」




 ノアが素直に呟く。




「まぁ辺境伯を泊めるからなっ」




 アウルは当然のように言った。




 そして振り返る。




「クラリス」




「ソフィア達の世話任せたっ」




「承知しました」




 クラリスが静かに頷いた。




「よしっ」




 アウルが笑う。




「飯食おう、飯」




「この部屋で食おうぜ」




 その言葉に、クラリスが僅かに目を瞬かせる。




「なぁ」




 アウルはさらに続けた。




「クラリスとアリスも一緒に食わねぇか?」




「護衛の騎士達は流石に難しいが」




「ふむ」




 ソフィアが腕を組む。




「まぁ元より騎士達と御者は別行動だ」




「アリスとクラリスは、この部屋で共に過ごせば良いだろう」




「だよなっ」




 アウルは嬉しそうに笑う。




「みんなで食おうっ」




「……仕方ないですね」




 クラリスが苦笑する。




 そして隣へ視線を向けた。




「アリスさんもよろしいですか?」




「……私も良いのでしょうか?」




 少し遠慮がちな声。




「構わん」




 ソフィアが即座に答える。




 ノアも微笑んだ。




「アリスも一緒に食べよ?」




「はいっ」




 アリスの表情がぱっと明るくなる。




「では手配しますね」




 クラリスはそのまま部屋を後にした。





 ---




 しばらくして。




 食事が運ばれてくる。




 広い卓を囲み、皆で席に着いた。




「やっぱみんなで食うとうめぇなっ」




 アウルが楽しそうに笑う。




 クラリスも小さく微笑んでいた。




「みんな食べるの上手だなぁ」




 ノアが周囲を見ながら呟く。




「なんだ?」




 アウルが笑う。




「作法なんか気にしてんのか?」




「ノアだって問題ねぇよ、大丈夫だ」




「うむ」




 ソフィアも頷く。




「十分自然だ」




「……そう?」




 少し照れたようにノアが笑う。




 穏やかな空気。




 王城とは思えぬ程に、柔らかな時間が流れていた。





 ---




 食事を終え。




 アウルが立ち上がる。




「じゃあ俺らは退散するかぁ」




「ノアっ、俺の部屋行こうぜ」




「いや、その前に風呂だなっ」




「風呂行こうぜっ」




「分かった」




 ノアも立ち上がる。




 その時。




 ソフィアの表情が、ほんの僅かに曇った。




 ノアはすぐに気づく。




「またね、ソフィア」




 自然な動きで、そっと抱きしめる。




「っ!?」




 ソフィアが目を見開いた。




「アリスも」




 続けてアリスも抱き寄せる。




「行ってらっしゃいませ、ノア様」




 アリスが嬉しそうに微笑む。




 ソフィアは小さく息を吐き。




「……何かあったらすぐ呼ぶのだぞ?」




「うん」




 ノアは穏やかに笑った。




 その様子を見ていたアウルが、ニヤリと笑う。




「俺らもやるか?」




「っ」




 クラリスの頬が一瞬で赤くなる。




「……怒りますよ?」




「悪い悪い」




 アウルは軽く笑った。




「よしっ、行くかっ」





 ---




 王城の廊下。




 ノアとアウルは並んで歩く。




 すると。




 すれ違う侍女達の視線が、自然とノアへ向いた。




「……どなた?」




「殿下のお連れ?」




 小さな声。




 そして、ちらちらと向けられる視線。




 ノアは特に気づいていない。




 だがアウルは楽しそうに笑った。




「うんうん」




「今日も健在だなっ」




「?」




 ノアが首を傾げる。




 その時。




 前方から二人の女性が歩いて来る。




 茶髪。




 茶の瞳。




 よく似た顔立ち。




「あっ」




 アウルが声を上げた。




「リリ姉っ! マリ姉っ!」




「?」




 ノアは小さく目を瞬かせた。

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