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第90話 王都への道

 早朝。




 まだ空気の冷たい時間。




 静かな部屋の中。




 ノアは、眠りの浅い意識の中で――




 小さく身体を揺すられる感覚に目を覚ました。




「……ノア様」




 優しい声。




 ゆっくりと瞼を開く。




 視界に入ったのは、すぐ傍にいるアリスだった。




「おはようございます」




 ベッドの傍に腰を下ろし。




 少しだけ困ったように、でも嬉しそうに微笑んでいる。




「……おはよう、アリス」




 まだ少し眠たげに返しながら。




 ノアは、ふと部屋の中を見回した。




「……あれ?」




 もう一つのベッドが空いている。




「アウルは?」




「殿下でしたら、もう外へ」




 アリスが小さく答える。




「あぁ」




 ノアは納得したように頷いた。




「アウルは鍛錬か」




「はい」




 その返事のあと。




 少しだけ、間が空く。




 アリスは、何かを言いたげに視線を揺らして――




 やがて。




 そっと、ノアに抱きついた。




「……アリス?」




「すみません」




 小さな声。




「少しだけ……」




 そのまま、ぎゅっと力がこもる。




「こうしていたいです」




 甘えるような声音。




 ノアは少しだけ目を細めて。




 優しく、その背に手を回した。




「うん」




 静かに抱き返す。




 アリスは安心したように、胸元に顔を埋めた。




 短い時間。




 けれど、確かな温もり。




 そのまま、穏やかな朝が流れていった。






 ---




 朝食。




 ノア、ソフィア、アウルの三人が席に着く。




 アウルはいつも通り、明るい。




 だが――




 ノアは、じっとその顔を見ていた。




「……な、なんだよ?」




 アウルが少し居心地悪そうに言う。




「いや」




 ノアは素直に答えた。




「アウルって凄いなって」




「は?」




 一瞬、間が空く。




「朝の鍛錬か?」




「別にふつーだよ、ふつー」




 どこか照れ隠しのように言いながら。




「なぁ、ソフィア?」




 話を振られたソフィアは、静かに頷いた。




「ふむ」




「私も早朝から鍛えていた時期もあるが」




 一拍。




「今も継続しているお前は、大したものだ」




「おいおい」




 アウルが肩をすくめる。




「ソフィアまで何だよ〜」




 そう言いながらも。




 口元は、少しだけ嬉しそうに緩んでいた。




「……まぁ、悪い気はしねぇ」




 照れたように笑う。




 ノアは、その様子を見て穏やかに微笑んだ。





 ---




 裏口。




 出発の準備は、すでに整っている。




 馬車、護衛、そして一行。




 ソフィアが全員を見渡した。




「今日の行程で王都に着く」




 張りのある声。




「最後まで気を抜くな」




「おうっ」




 アウルが力強く応じる。




 一行は、再び街道へと向かった。





 ---




 移動中の馬車。




 揺れの中。




 アウルは窓の外を眺めながら、ふと口を開く。




「夕時に着いたら、王城に直行だな」




「師より先に、母上に言った方が早いなっ」




「良いの?」




 ノアの問いに。




 アウルは、当然のように笑う。




「良いんだよ」




 胸を張って。




「俺は王太子だからなっ」




 その言葉に、ノアは少しだけ目を細めた。




 軽いようでいて。




 その奥には、確かな覚悟がある。




「まぁ」




 アウルは苦笑する。




「師から何か言われるだろうけど……」




 肩をすくめて。




「まぁ、気にすんなっ」




 ノアは、静かに頷いた。




「ありがとう、アウル」




 まっすぐな言葉。




 アウルは、にっと笑う。




「任せとけって」




 その一言が、妙に頼もしく聞こえた。

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