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第88話 旅立ちの朝

 早朝。




 まだ薄暗い時間。




 ノアは、柔らかな揺れで目を覚ました。




「……起きろ、ノア」




 すぐ傍で、静かな声。




 ソフィアだった。




「ん……おはよう」




「おはよう」




 短いやり取り。




 だが――




 距離は近い。




 ソフィアはそのまま、ノアの肩に軽く触れる。




「……少しだけ」




 そう呟いて。




 ほんの僅かに寄り添う。




 ノアは苦笑しながら。




 そっと、その頭を撫でた。




「出発前だしね」




「……あぁ」




 短く答えながらも。




 どこか名残惜しそうに、身体を離す。




「……支度をしよう」





 ---




 朝食。




 ノア、ソフィア、アウルの三人が席に着いていた。




「いやぁ、今日も飯がうめぇ」




 アウルが満足そうに言う。




「気分良いなっ」




「アウルはいつもご飯の時楽しそうだね」




 ノアが微笑む。




「あぁ」




 アウルは笑った。




「ノアとソフィアと食うの、好きだぜ?」




 その言葉に。




 ノアは少しだけ目を細めた。




 ソフィアは、淡々としながらも――




 どこか穏やかな空気を纏っている。




「今日は宿町までの行程だ」




 食事を終えた頃。




 ソフィアが口を開く。




「王都から帰ってきた時と同じ顔ぶれで行く」




「馬車にノア、アウル、アリス、クラリス」




「私は騎士三人と共に、周囲を固める」




「おうっ」




 アウルが力強く頷く。




「そろそろ出るぞ」





 ---




 城館の外。




 一同が集合していた。




 ノア、ソフィア、アリス、アウル、クラリス。




 そして護衛の騎士三人と、御者。




 ソフィアが全員を見渡す。




「今回は王都に一週間は滞在するだろう」




 静かながらも、張りのある声。




「各自、気を引き締めるように」




 一拍。




「行くぞ」




 その一言で、隊は動き出した。





 ---




 港。




 補給船が待機している。




 馬車ごと乗船するための準備は、すでに整っていた。




「ほー、やっぱ何回見てもデカいな」




 アウルが船を見上げる。




 一行は、そのまま船へと乗り込んだ。




 馬車も問題なく収まる。




「なぁ」




 乗船後、アウルが振り返る。




「船、見て周っていいか?」




 ソフィアは一瞬だけ視線をノアへ向けた。




「……ノアはどうしたい?」




「見たいかな」




「そうか」




 短く頷く。




「なら私たちは室内に居る」




「二人で周れ」




「よっしゃ」




 アウルが笑う。




「ノア、行こうぜ」




「うん」





 ---




 船内。




 木の軋む音と、波の揺れ。




 通路を歩きながら、アウルは周囲を見回す。




「しかしよ」




「やっぱ船って独特だよな」




「そうだね」




 ノアは軽く頷きながら歩く。




 その途中――




 すれ違った女性の視線が、ふと止まる。




 ノアへ。




 一瞬、見惚れるように。




 そして慌てて逸らす。




 それが、一度ではない。




 アウルはそれを見て、にやりと笑った。




「あぁ、やっぱお前のそれ見る感じ」




「穏便に進みそうだなっ」




「それって……女性の反応?」




「おうよ」




 即答。




 ノアは少し考えてから。




「そっかぁ」




 どこか他人事のように呟いた。





 ---




 やがて。




 船は港町へと到着する。




 そのまま下船し、すぐに街道へ。




 道は整っており、進みは順調だった。




 やがて――




 夕暮れ。




 空が橙に染まる頃。




 一行は、宿町へと辿り着いた。

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