第87話 甘える夜
夜。
ノアの自室。
静かな空気の中。
ソフィアは、ノアの隣に座っていた。
いつもより、少し近い。
肩が、自然と触れ合う距離。
「……」
何も言わず。
そっと、ノアの腕に触れる。
指先が、確かめるように絡む。
「ソフィア?」
ノアが視線を向ける。
だがソフィアは答えない。
代わりに――
そのまま、ゆっくりと身体を寄せた。
肩に、頭を預ける。
さらに、距離を詰めるように。
腕を絡めたまま、離れない。
「……どうしたの?」
優しく問う声。
その一言で。
ソフィアは、わずかに目を伏せた。
「……ノア」
小さく呼ぶ。
声が、少しだけ柔らかい。
その様子を見て。
ノアは、ふっと微笑んだ。
そっと手を伸ばし――
頭を優しく撫でる。
「今日は甘えたい気分?」
穏やかな声。
ソフィアは、少しだけ目を伏せる。
「明日から忙しくなる」
ぽつりと。
「それに……」
言葉を切る。
わずかに視線を逸らして。
「旅先で……その……」
少しだけ言い淀む。
「致す訳にもいくまい?」
「まぁ……そうだね」
ノアは苦笑しながら頷く。
その答えを聞いて。
ソフィアは、ゆっくりと顔を上げた。
「今夜は」
まっすぐに見つめる。
「ずっとノアを感じたい」
その言葉に。
ノアは、ほんの少しだけ驚いたように目を細める。
「……なんか」
「?」
「可愛いね、ソフィア」
「っ……」
一瞬で、頬が赤くなる。
視線が揺れる。
だが――
逃げない。
「……破廉恥な女は嫌か?」
少しだけ強がるように。
それでもどこか、不安が混ざる声。
ノアはすぐに首を振った。
「ううん、嫌じゃないよ」
優しく答える。
そして。
「僕だけに見せてくれるの、嬉しいな」
その一言に。
ソフィアの瞳が揺れた。
「ノアっ」
堪えきれず。
そのまま、強く抱きつく。
ノアはそれを受け止める。
当然のように。
静かに、しかし確かに。
互いの距離が、さらに近づいていく。
言葉は少なくなり。
ただ、触れ合う温もりだけが残る。
夜は、ゆっくりと――
二人を包み込んでいった。




