第86話 覚悟の先に
一週間後。
昼。
執務室には、いつもの面々が揃っていた。
ノア、ソフィア、アリス。
そして、アウルとクラリス。
ソフィアが口を開く。
「先程、補給船が到着した」
淡々とした報告。
「待機するよう伝えてある」
「明日の早朝に発つ」
「おうっ」
アウルが力強く頷く。
「報告書を見たが」
ソフィアは視線をアウルに向ける。
「あれなら詳細に伝わるだろう」
「今回はノアのことのみならず」
「この島自体の報告でもある」
その言葉に、場の空気が少しだけ引き締まる。
「魔石の鉱脈が見つかった以上」
「この島を、ただ管理するだけでは済まぬ」
静かに、だが重みのある声。
「覚悟は良いか?」
一瞬の間。
だがアウルはすぐに笑った。
「問題ねぇ」
「臨むところだっ」
迷いのない言葉。
ソフィアは、わずかに口元を緩めた。
「ふっ」
そして。
「ノア」
「うん?」
「寵愛領域の練度はどうだ?」
ノアは少し考えるようにしてから答える。
「最初は、胸の内にある感じだったけど」
「触ってるうちに広がっていって」
「今は身体の中で循環してるかな?」
「意識して抑えないと、大分漏れ出る感じ」
「そうか」
ソフィアは頷く。
「意識して広げようとするなら」
「範囲はどのくらいだ?」
「多分……この島の半分くらいは届くかなぁ」
「は?」
アウルが目を見開く。
「おい待てよ」
「この島って端から端が八キロぐらいだろ?」
「お前から四キロ離れても届くのかよっ」
「いや、僕を中心に広がるから」
「半径で言うと二キロくらい?かな?」
「いやそれでもヤベェわ」
アウルが頭を抱える。
ソフィアは静かに考え込む。
「……成程」
「ノアの寵愛領域」
「そしてこの島」
「この先、ノアの寵愛領域で島全体を包めるとしたら」
一度、言葉を区切る。
「やはり偶然では無いだろうな」
「お前マジで神かなんかか?」
アウルが半ば呆れたように言う。
「どうなんだろう?」
ノアは変わらず穏やかだ。
「妙に落ち着いてるよなお前って」
「そうかな?」
「そうそう」
軽く笑うアウル。
だが。
ソフィアは、静かにノアを見つめていた。
「まぁ、ノアが何者であれ」
一歩、言葉に力が乗る。
「私の男だ」
はっきりと。
「私が守る」
「堂々としてんなぁ……」
アウルが苦笑する。
そのやり取りに――
「え?」
クラリスが目を瞬かせた。
「ソフィア様とノア様は、恋仲なのですか?」
「ん?」
アウルが振り返る。
「クラリスは気づかなかったのか?」
「明らかに途中から距離近かったぞ?」
「……全く気づきませんでした」
真顔で返すクラリス。
「鈍いなぁ」
「ぐっ……」
軽く言い返せず詰まる。
「アリスもだよな?」
「!?」
話を振られたアリスが固まる。
一瞬で顔が赤くなる。
「ほらな?」
アウルがにやりと笑う。
「アリスさんもっ?」
クラリスが驚いた声を上げる。
「まぁノアだし」
「女からすりゃ当たり前だろうな」
「……それは確かに」
小さく頷くクラリス。
ソフィアは、その様子を一瞥してから。
「まぁ話は以上だ」
いつもの調子に戻る。
「各自、早めに休め」
静かに告げた。
明日に備えるように。




