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第83話 和らぐ時間

 執務室。




 机の上には、積み上げられた書類。




 ソフィアはその一つに目を通しながら、淡々とペンを走らせていた。




 その傍ら。




 ノアが椅子に座り、静かにその様子を眺めている。




 少し離れた位置に、アリス。




 控えめに立ち、二人を見守っていた。




 しばらくして。




 ノアが口を開く。




「僕は……ソフィアの側に居るだけで良いの?」




 その問いに。




 ソフィアは、手を止めることなく答えた。




「そうだ」




 即答。




 迷いは一切ない。




「ノアが居るだけで、心が和らぐ」




 淡々とした声音。




 だがその言葉は、確かな本音だった。




「アリスもそうだろう?」




「はいっ」




 アリスがすぐに頷く。




「ノア様の側は……落ち着きます」




 少しだけ頬を染めながらも、はっきりと答えた。




「そっかぁ」




 ノアは、どこか照れたように笑う。




 ソフィアは、再び書類に視線を落としながら続けた。




「それに……」




 ペン先が止まる。




「クラウディアが、度々報告に来るだろう?」




「彼女も、私が穏やかな方が気が楽だろう」




「クラウディアさんか……」




 ノアが小さく呟く。




「……あんまり話したこと無いかも」




 その言葉に。




 ソフィアの手が、ぴたりと止まった。




「……クラウディアが気になるのか?」




 わずかに視線を向ける。




 ノアは首を横に振った。




「気になるというか……」




「ソフィアの副官でしょ?」




「もう少し関わった方が良いのかなって」




「ふむ……」




 ソフィアは、少しだけ考える。




 そして、ゆっくりと口を開いた。




「クラウディアのことは、学院時代から知っている」




「特別親しい関係では無かったが」




 一度、言葉を切る。




「私が辺境伯に就任してから……共に在ってくれた」




 その声音には、わずかな信頼が滲んでいた。




「そっか」




 ノアは静かに頷く。




 ソフィアは、再びペンを走らせながら。




「まぁ……彼女にも良くしてやってくれ」




 そう言った。




「分かった」




 ノアは素直に答える。




 執務室には、再び静かな時間が戻る。




 紙をめくる音。




 ペンの走る音。




 そして。




 三人の穏やかな空気。




 それは、どこか――




 心地の良いものだった。

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