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第80話 優しい夜

 静かな夜。




 部屋の中は、わずかな灯りに包まれている。




 ノアの腕の中。




 アリスは、小さく息を整えていた。




「……ノア様」




 小さく呼ぶ。




 その声には、不安と期待が混ざっている。




 ノアは、そんな彼女を見て――




 優しく微笑んだ。




「アリス」




 名前を呼び返す。




 穏やかな声。




 アリスは、ゆっくりと視線を上げる。




 そのまま――




 唇が重なった。




「……っ」




 小さく息を漏らすアリス。




 ノアは一度だけ離れ――




 すぐに、もう一度触れる。




 今度は、少し長く。




「大丈夫だよ」




 優しい声。




 それだけで。




 アリスの肩の力が、少しだけ抜けた。




「……少しだけ、怖いです」




 正直な言葉。




 ノアは否定しない。




 ただ、そっと頬に触れる。




「そっか」




 それだけ。




 それだけなのに。




 アリスは、ほっとしたように微笑んだ。




「でも……」




 一歩、近づく。




 自分から。




「ノア様となら」




 その手は無意識にノアの服を掴んでいた。




 ノアはそれに気づき。




 そっと、その手に自分の手を重ねる。




 アリスの呼吸が、少しずつ整っていく。




「……ノア様」




 再び名前を呼ぶ。




 その声は、先程よりも柔らかい。




 逃げ場はない。




 だが――




 安心しかない。




「アリス」




 その言葉の先は――




 唇で重なった。




 静かに。




 ゆっくりと。




 確かめるように。




 一度。




 離れて。




 もう一度。




 今度は、少しだけ深く。




「……っ」




 小さく息が漏れる。




 だが、離れない。




 むしろ、縋るように。




 ノアの服を、ぎゅっと掴む。




「アリス」




 名前を呼ばれる。




 それだけで。




 胸の奥が、熱くなる。




「……離れません」




 ノアは、ふっと笑った。




 何も言わず。




 ただ、抱き寄せた。




 包み込むように。




 守るように。




 そのまま、ゆっくりと距離が縮まっていく。




 触れ合う温もり。




 重なる呼吸。




 言葉は少ない。




 だが。




 互いの想いは、確かに伝わっていた。




 アリスは、目を閉じる。




 全てを預けるように。




 ノアの胸に、そっと額を寄せた。




 そのまま、身を預ける。




 ノアはそれを受け止める。




 当然のように。




 迷いなく。




 部屋の灯りが、静かに揺れる。




 夜は、ゆっくりと――




 二人の距離を、さらに近づけていく。




 そして、深く――




 二人を包み込んでいった。

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