第79話 穏やかな一日
昼。
執務室。
「まぁ今日はゆっくりするかなぁ」
椅子にもたれながら、アウルが気の抜けた声を出す。
ノアは少し笑った。
「そうだね。アウルはこの島に来てからずっと動いてるもんね」
「いや、なんか楽しくてよ」
その様子を見て、ソフィアが静かに口を開いた。
「楽しむのも良いが」
一拍。
「あまりハメを外し過ぎるなよ?」
「分かってるって」
軽く手を振るアウル。
ふと視線を巡らせる。
「この屋敷、書庫あったな」
「本でも読むかな」
その言葉に、クラリスがわずかに目を見開いた。
「珍しいですね殿下」
「自ら進んで本をお読みになるとは」
「まぁ今日はそういう気分だ」
肩を竦める。
そしてちらりと視線を向ける。
「クラリスも読めよ。本好きだろ?」
「……承知しました」
柔らかく微笑む。
「じゃあ中庭で読むか」
そう言って立ち上がる。
クラリスもそれに続き、二人は部屋を後にした。
扉が閉まる。
その様子を見て、ノアがぽつりと呟いた。
「仲良いね」
ソフィアは腕を組みながら頷く。
「いずれ夫婦になる間柄だろう。結構なことだ」
「え?そうなの?」
ノアが目を丸くする。
ソフィアは淡々と続けた。
「アウルが王になるのは確定だろう」
「そのアウルの世話役に老獅子の孫娘」
「……老獅子の目論みだな」
「なるほど……」
「まぁ妥当だろう」
短く言い切る。
「アウルなら王として問題無い。実力もある」
「そうだね」
ノアは素直に頷いた。
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夕食。
「いやぁ中々面白かったな」
満足そうにアウルが言う。
「良かったね」
「おう。たまにはこういう日も悪く無ぇ」
穏やかな空気が流れる。
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夜。
ノアの自室。
静かな時間。
コンコン、と扉が叩かれる。
「ノア様……」
少し緊張した声。
「入っていいよ」
扉が開く。
アリスがゆっくりと入ってくる。
「ノ、ノア様……」
少しだけ俯きながら。
それでも一歩、近づく。
ノアは自然に腕を広げた。
「おいで」
その一言に。
アリスは迷わなかった。
すぐにその胸へと飛び込む。
ぎゅっと抱きしめられる。
「……」
安心するように、目を閉じる。
ノアはそのまま、優しく抱きしめ返した。
ゆっくりと。
距離が縮まる。
視線が重なる。
そして――
静かに、唇が触れる。
一度。
離れて。
もう一度。
今度は、少しだけ長く。
「ノア様……」
小さな声。
そのまま、見上げる。
「好きです」
まっすぐな想い。
ノアは、優しく微笑んだ。
「僕も、アリスが好きだよ」
その言葉に。
アリスの頬が、ふわりと緩む。
距離が、さらに近づく。
触れる温もり。
重なる呼吸。
「……よろしくお願いします」
小さく。
だが確かな決意を込めて。
そう告げた。
夜は、静かに流れていく。




