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第74話 動き出す世界

 夕暮れ。




 橙色の光が、城館の外を染めていた。




 やがて――




 二頭の馬が戻ってくる。




「おかえり」




 ノアが穏やかに声をかける。




「おう、ただいまっ」




 アウルが軽く手を上げる。




 ソフィアは短く頷いた。




「うむ」




 そのまま馬を降りる。




 クラリスとアリスも控えている。




 アウルは肩を回しながら言った。




「詳しいことは飯の時に話すがよ」




 一拍。




「この島は特別で間違い無かった」




 ノアは小さく頷く。




「そっか」




 アウルはにやりと笑う。




「さて、飯にするかっ」




 その言葉に、クラリスがすかさず口を挟む。




「殿下、ここは殿下の屋敷ではございません」




 ぴしゃりとした声音。




 だがアウルは気にしない。




「良いじゃねぇか」




 軽く振り返る。




「なぁソフィア?」




 ソフィアは一瞬だけ考え――




「……まぁ、構わん」




 と答えた。




 アウルが笑う。




「ほらなっ」




 クラリスはため息をつく。




「よろしいのですか、ソフィア様?」




 ソフィアは静かに言う。




「これからアウル、それにクラリス」




「この島で長期にわたって過ごすことになる」




 一拍。




「遠慮は要らん」




 クラリスは背筋を伸ばした。




「……承知いたしました」




 ――




 夕食。




 ノア、ソフィア、アウルが席につく。




 食事が始まる。




 やがて、アウルが口を開いた。




「んでよ?」




 軽く前に身を乗り出す。




「魔石の鉱脈を見つけた」




 一瞬の間。




「……ソフィアがな」




 ノアは素直に頷く。




「そっかぁ」




 アウルが呆れたように言う。




「おいおい、このヤバさ分かってるか?」




 ソフィアが淡々と補足する。




「魔石は文明の基盤だ」




「魔道具の動力源であり、生活に欠かせないもの」




「照明、コンロ、冷蔵庫――」




「工業機械にも用いられる」




 静かに続ける。




「その鉱脈が見つかった」




 一拍。




「ノアの存在を抜きにしても、秘匿出来ぬ事態だ」




 アウルが頷く。




「そうそう」




 ノアは少し考えてから言う。




「なるほど」




 ソフィアはさらに続ける。




「魔石の精製、加工、魔道具の開発は帝国が圧倒的だ」




「この島は、世界を巻き込む」




 静かな断言。




「……忙しくなるな」




 アウルが笑う。




「まぁな」




 肩をすくめる。




「この島を開拓するにあたって、ヴァルディアだけじゃ足りねぇ」




「各国の手も借りりゃ、一気に進むさ」




 一拍。




「俺たちとしては、平和に事が進むよう気合い入れるしかねぇなっ」




 ソフィアも頷いた。




「……そうだな」




 アウルはふとノアを見る。




「てかよ?」




「ノアが現場に居たら、開拓も捗るんじゃねぇか?」




 ノアは首を傾げる。




「そうなの?」




「あぁ、間違いねぇ」




 即答だった。




「お前の寵愛領域、ヤベェもん」




 軽く笑う。




「それにお前を各国との交渉に連れ回すだけで、穏便に済んだりしてな」




 ソフィアが考えるように目を細める。




「その可能性はある」




「王都での謁見を思えば……無くは無い」




 アウルが笑う。




「だよなっ」




 ノアはのんびりと頷く。




「そっかぁ」




 その様子に、アウルは呆れたように笑った。




「相変わらず緩いよなぁ、お前」




 穏やかな空気。




 だがその裏で――




 世界は、確実に動き始めていた。

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