第73話 神の遺産
城館の外。
馬の準備が整っている。
アウルが軽く手綱を握りながら振り返った。
「じゃあ行ってくるわ」
ノアが頷く。
「気を付けてね」
「おうっ」
軽く手を上げる。
その横で、クラリスが一歩前に出た。
「殿下」
「何か見つけても、行動する前にソフィア様にまず確認ですよ?」
「良いですね?」
アウルは肩をすくめる。
「分かってるって」
ソフィアは静かにノアを見る。
「ノア」
「うん?」
ほんの一瞬、言葉を選ぶ。
「……行ってくる」
ノアは柔らかく微笑んだ。
「うん、ソフィアも気を付けてね」
「うむ」
短く頷く。
それだけで、十分だった。
二人は馬に乗り、城館を後にする。
――
昼過ぎ。
島の中を進む二つの影。
「うーん……」
アウルが周囲を見渡す。
「特に怪しそうなとこは無ぇなぁ」
ソフィアも周囲に視線を走らせる。
「さっきも出くわしたが」
「強いて言えば、魔物が残す魔石か」
「あぁ、そう言えばそうか」
アウルが頷く。
「質が良いよな」
ソフィアは小さく考え込む。
「……ふむ」
「どうした?」
アウルが問う。
ソフィアは視線を遠くへ向けた。
「岩場に行ってみるか……」
「岩場?」
アウルが眉をひそめる。
「いや、流石に無いとは思うが……」
それでも、ソフィアは馬を進めた。
――
やがて辿り着いたのは、広がる岩場。
無数の岩が連なり、乾いた大地が広がっている。
アウルが周囲を見渡す。
「で?どうすんだよ?」
ソフィアは答えず、馬から降りた。
「離れてろ」
短く告げる。
剣を抜く。
次の瞬間――
鋭い一閃。
岩が削られる。
砕けた石が、地面に散らばる。
ソフィアはその一つを拾い上げた。
「……」
わずかに、息を吐く。
「はぁ……」
アウルが近づく。
「何だよ?」
ソフィアは無言で、その石を差し出した。
「これを見ろ」
アウルは受け取る。
「ん?この石ころが何だって――」
言葉が止まる。
「……嘘だろ?」
目を見開く。
ソフィアが静かに言う。
「……魔石だ」
アウルが周囲を見渡す。
広がる岩場。
無数の岩。
「おいおい……」
「魔石の鉱脈だと?」
一歩、踏み出す。
「めちゃくちゃ広いしデケぇぞ、この岩場っ」
「これ……全部魔石か?」
ソフィアは首を横に振る。
「断定は出来んが」
「少し削っただけで魔石が出た」
一拍。
「可能性は高い」
アウルは大きく息を吐いた。
「この島……どうなってんだよ……」
ソフィアは静かに答える。
「世界の中心にある島」
「……神が遺した島かもな」
その言葉に、アウルは小さく笑う。
「……そこに現れたのがノアか」
空を見上げる。
「アイツ、ホントに何者なんだろうな」
ソフィアは迷いなく言った。
「ノアが何者にせよ」
一歩前に出る。
「私は、ノアの側に居る」
その言葉に、アウルは口元を上げる。
「そうだな」
「俺の友達だし」
肩をすくめる。
「関係ねぇなっ」
ソフィアはわずかに笑った。
「……ふっ」
風が、静かに吹き抜ける。
その島は――
確実に、何かを内包していた。




