第68話 決断の時
執務室。
ノア、ソフィア、アリス、アウル、クラリスが揃っていた。
静かな空気の中、アウルが口を開く。
「王都行きの件だがよ」
椅子に深く腰掛けたまま、腕を組む。
「やっぱノアも連れて行く」
ノアが少しだけ目を瞬かせる。
「僕も?」
「あぁ」
アウルは頷く。
「改めて俺からも、こいつのヤバさ伝える」
視線がノアに向く。
「人間じゃねぇ可能性」
「中央島の泉に温泉の環境」
一つずつ、指折り数えるように言う。
「説明しねぇとな」
ソフィアは静かに頷いた。
「……そうか」
「分かった」
アウルは続ける。
「あとは島の開拓にあたって、こいつを貴族連中に見せなきゃならねぇ」
軽く息を吐く。
「いつまでもノアを隠すのも面倒だ」
ソフィアは一瞬だけ目を細めた。
「……そうだな」
アウルの視線が少しだけ鋭くなる。
「特に聖国だ」
「ノアを隠してて、あの国にバレたら厄介だ」
室内の空気がわずかに張り詰める。
「それに」
アウルは続ける。
「俺たちがこの島を正式に開拓する通達も要るだろうな」
ソフィアは短く答える。
「うむ」
「多少揉めるだろうが」
アウルは肩をすくめる。
「隠し続けてバレる方が、よっぽどまずい」
一拍。
ソフィアは小さく息を吐いた。
「……成程な」
そして、わずかに口元を緩める。
「伊達に王太子では無いようだ」
アウルは軽く笑う。
「そうかよ」
だが、その目は真剣だった。
「俺は補給船が来るまで、しばらく島を見て回る」
「泉に温泉……もしかしたら他にもあるかもしれねぇからな」
ソフィアは頷く。
「承知した」
アウルはゆっくりと立ち上がる。
そして――
ノアを見る。
「ノア」
「なに?」
アウルは一瞬だけ言葉を止めた。
視線がわずかに揺れる。
「……いや」
軽く息を吐く。
「何でもない」
そのまま背を向ける。
だが、その足取りは迷いがなかった。
室内には、静かな余韻が残る。
誰も口を開かない。
ただ一つだけ確かなことがあった。
――ここから先は、もう戻れない。




