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第65話 約束の夜

 夜。




 ノアの部屋。




 静かな時間。




 ノアは椅子に座り、ゆっくりと息を吐く。




 扉がノックされる。




「ノア様」




 アリスの声。




「うん」




 扉が開く。




 アリスが入ってくる。




 柔らかな笑み。




 自然と距離が近づく。




「お疲れ様でした」




「ありがとう」




 穏やかなやり取り。




 そのまま、静かに寄り添う。




 言葉は少ない。




 だが、それで十分だった。




 しばらくして、アリスがそっと離れる。




「では、私はこれで」




「うん、おやすみ」




「おやすみなさいませ」




 静かに扉が閉まる。





 ---




 少しして。




 再びノック。




「……入るぞ」




 ソフィアの声。




「うん」




 扉が開く。




 ソフィアが入ってくる。




「どうしたの?」




 ノアが聞く。




 ソフィアは少しだけ間を置いた。




「明日の模擬戦だが」




 視線を向ける。




「寵愛領域を、私に使え」




 ノアは瞬きをする。




「試したいことって、それ?」




「あぁ」




 ソフィアは頷く。




「レベルの上では、私より王太子の方が上だ」




 静かな声。




「そこで寵愛領域だ」




「鍛錬は継続しているのだろう?」




「うん」




 ノアは素直に答える。




「だいぶ扱えるようになってきた」




 ソフィアは一歩近づく。




「ノア」




 少しだけ声が柔らぐ。




「私に力を貸してくれ」




 ノアは迷わない。




「もちろん」




 その返答に、ソフィアはわずかに息を詰めた。




「ノ、ノア」




「うん?」




 ソフィアは目を逸らす。




 言葉を探す。




 そして――




「わ、私が勝ったら……」




 一瞬の間。




「……お前を抱きたい」




 静寂。




 ノアはただ微笑む。




「分かったよ」




 ソフィアが顔を上げる。




「よ、良いのか?」




「うん」




 変わらない声。




「だって、好きだし」




 ソフィアの頬が赤くなる。




「……っ」




 言葉が出ない。




「で、ではな」




 慌てたように背を向ける。




「早く寝るんだぞ」




「うん、おやすみソフィア」




 扉の前で、少しだけ止まる。




「……おやすみ」




 小さな声を残して、去っていった。





 ---




 翌朝。




 食堂。




 ノア、ソフィア、アウルの三人。




 朝の光が差し込む。




 アウルが伸びをする。




「いやぁ」




 楽しそうに笑う。




「久々に本気出せそうで楽しみだぜ」




 ノアが聞く。




「そうなの?」




「あぁ」




 アウルは頷く。




「俺はレベル90だぜ?」




 軽く肩をすくめる。




「相手になるのなんざ、師とヘレナぐらいさ」




「多分な」




 そして視線を向ける。




「期待してるぜ?ソフィア」




 ソフィアは表情を変えない。




「ふん」




 短く返す。




 アウルは笑った。




「一時間後でいいか?」




「構わん」




 即答。




「じゃあ訓練場で待ってるぜ」




 アウルは立ち上がり、そのまま去っていく。




 残された二人。




 ノアがぽつりと呟く。




「レベル90かぁ」




 そしてソフィアを見る。




「ソフィアは?」




「……88だ」




 少しだけ間。




 ノアは頷く。




「そっかぁ」




 ソフィアは視線を逸らさない。




「だが、劣るとは思わん」




 静かな声。




「技術で覆る差だ」




 ノアは微笑む。




「頑張ってね」




 ソフィアは短く答える。




「無論だ」




 その瞳には、迷いはなかった。

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