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第64話 島の兆し

 城館へ戻る頃には、空はすでに夕暮れに染まっていた。




 門の前で、アリスとクラリスが待っている。




「お帰りなさいませ」




 アリスが静かに頭を下げる。




「おう、ただいま」




 アウルが軽く手を上げた。




 ノアも小さく笑う。




「ただいま、アリス」




「お帰りなさいませ、ノア様」




 そのまま一行は中へ入る。





 ---




 夕食。




 ノア、アウル、ソフィアの三人。




 静かな食卓。




 だが、どこか落ち着いた空気が流れている。




 食事を終え、アウルが背もたれに身体を預けた。




「そういやさ」




 何気なく口を開く。




「ここ来てから、まだ風呂入ってねぇな」




 アウルは立ち上がった。




「ノア、入ろうぜ」




「いいよ」




 二人はそのまま浴場へ向かう。





 ---




 湯気が立ち込める。




 広い浴場。




 アウルが肩を回しながら湯に浸かる。




「ふぅ……」




 一息つく。




 ノアもゆっくりと湯に入る。




 温かさが全身に広がる。




 アウルがちらりと見る。




「へぇ、お前いい身体してんじゃねぇか」




 ノアは首を傾げる。




「そうかな?」




「あぁ、もっとヒョロいと思ってたぜ」




「アウルはムキムキだ」




 アウルは軽く笑う。




「俺は鍛えてるからな」




 湯気の中で、しばしの沈黙。




 心地よい静けさ。




「ふぅ~……」




 アウルが目を細める。




「この屋敷で過ごすの、悪くねぇなぁ」




「そうだね」




 ノアも頷く。




 その時だった。




「あっ」




 アウルが思い出したように顔を上げる。




「そういやさっきの臭い」




 ノアが見る。




「うん?」




「あれな」




 アウルは少しだけ考える。




「ダンジョン都市の近くにある宿町の温泉」




「……あれと同じ臭いだ」




 ノアが目を瞬かせる。




「温泉?」




「あぁ」




 アウルは頷く。




「あの独特な臭い」




「多分そうだ」




 少しだけ笑う。




「掘ったら湧くんじゃねぇかな」




 ノアは静かに聞いている。




「あの泉といい、温泉かぁ」




 アウルは天井を見上げた。




「この島、やっぱ何かあるな」




「何かって?」




 ノアが問う。




 アウルは少しだけ言葉を探す。




「こう……神話に絡むようなさ」




 そしてノアを見る。




「そもそもお前、この島で現れたんだろ?」




「何か理由あるな」




 ノアは少しだけ考える。




「そうかな?」




 アウルは即答した。




「間違いねぇ」




 軽く笑う。




「きっとそうだ」




 湯気が静かに揺れる。





 ---




 風呂から上がる。




 夜の空気が少しだけ冷たい。




 アウルが身体を伸ばす。




「さて、明日はどうするかな」




 ノアが聞く。




「また島を見て回るの?」




「それもいいが……」




 アウルはふと何かを思いつく。




「そうだ」




 口元が上がる。




「ソフィアと模擬戦しよう」




 ノアが目を瞬かせる。




「ソフィアと?」




「あぁ」




 アウルは頷く。




「辺境伯がどんなもんか気になるからな」




 そのまま歩き出す。




「よしっ、行くぞ」




 ノアも後を追う。





 ---




 執務室。




 ソフィアはまだ机に向かっていた。




 扉が開く。




「なぁ、ソフィア」




 アウルの声。




「何だ?」




 顔を上げる。




 アウルはそのまま言った。




「明日、俺と戦ってくれ」




「は?」




 ソフィアの眉がわずかに動く。




「辺境伯の実力が知りてぇ」




 アウルは真っ直ぐに言う。




 ソフィアは小さくため息を吐いた。




 そして――




 一瞬だけ、ノアを見る。




「……」




 何かを考えるように。




 そして、静かに口を開く。




「……良いだろう」




 アウルが少し驚く。




「お?いいのか?」




 ソフィアは視線を戻す。




「試したいことがある」




 その言葉だけが、静かに残った。

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