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第61話 開拓

 夕刻。




 執務室。




 ノアは窓際に座り、外を眺めていた。




 柔らかな光が差し込む。




 その近くで、アリスが静かに茶の準備をしている。




 ソフィアは机に向かい、書類を捌いていた。




 その時。




 扉が開く。




「よぉ、帰ったぞ」




 アウルの声。




 ノアが振り返る。




「おかえり、アウル」




「ああ」




 短いやり取り。




 そのまま、アウルは部屋の中へ入る。




 後ろにはクラリスの姿もあった。




「んでよ」




 アウルはそのまま話を切り出す。




「島を回ってきたんだが、面白いもん見つけた」




 ソフィアが視線だけを向ける。




「ほう」




「森の奥に泉があった」




「……泉か」




「ただのじゃねぇ」




 アウルは続ける。




「妙に澄んでてな、空気も違った。なんつーか……神秘的ってやつだ」




 アリスの手が一瞬だけ止まる。




 ソフィアはわずかに目を細めた。




「それで?」




「魔物も出た」




 アウルは腰の袋から魔石を取り出す。




 机の上に置いた。




「この魔石、質が良いよな?」




 ソフィアは手に取る。




 一瞬だけ見て、頷いた。




「……ああ。通常よりも密度が高い」




「だよな」




 アウルは軽く笑う。




「レベルも高かった。60前後だな」




 アリスが小さく息を呑む。




「そのレベルが、島の中で自然に……」




「中央島、ってやつだな」




 アウルは肩をすくめた。




 そして、少しだけ真面目な顔になる。




「なあ」




 ソフィアを見る。




「なんでこの島、今まで手つかずなんだ?」




 一瞬、静かになる。




 ソフィアはゆっくりと口を開いた。




「……ふむ」




 少し考える。




 そして淡々と語り始めた。




「私が知る限りでは、ヴァルディアがこの島に最も地理的に近かったが故に、最初に上陸し拠点とした」




 アウルは黙って聞く。




「後に帝国や聖国と接触する中で、この島が世界の中心であることを知る」




「……」




「初代ヴァルディア国王は、この島を開拓すれば帝国や聖国との間に軋轢を生むと危惧し、開拓を見送った」




 静かに続く言葉。




「そのまま時が流れ、ヴァルグレイン家に中央島の管理を一任するのが常態化した」




 一拍。




「……こんなところだ」




 アウルは小さく息を吐いた。




「なるほどな」




 そしてすぐに口を開く。




「じゃあさ」




 少しだけ前に出る。




「今、俺たちがこの島を開拓するのはダメなのか?」




 ソフィアはわずかに目を細める。




「それを王都に聞きに行くのだろう?」




「まぁな」




 アウルは軽く笑う。




 ソフィアは続けた。




「正直、この島を抑えているのはヴァルディアだが――」




 一瞬だけ視線が鋭くなる。




「あの女、ヴィオラ・ルクレツィアも言っていただろう」




「ヴァルディアはこの島を持て余していると」




 アウルの口元が上がる。




「ああ、言ってたな」




「海運を担う共和国の重鎮が接触してきた」




「そこにお前が居合わせ、許可を出した」




 ソフィアは淡々と告げる。




「私としては、悪くない判断だと思ったが」




 アウルは肩をすくめた。




「だよな?」




 そして、少しだけ熱を帯びた声で言う。




「てか俺としてはさ」




「共和国だけじゃなくて、帝国や聖国とも交易して――」




 一拍。




「世界の中心みたいにしたいんだよ」




 静かに空気が変わる。




 ノアはその言葉を、ただ聞いていた。




 アリスも、手を止めている。




 アウルは笑う。




「このまま手つかずじゃ、面白くないだろ」




 ソフィアは少しだけ目を細めた。




 そして。




「……ならば」




 小さく息を吐く。




「陛下に老獅子、それに貴族連中を納得させることだな」




 アウルは迷いなく答える。




「問題ない」




 一歩も引かない声。




「なんとかなるさ」




 ソフィアはわずかに笑った。




「……ふっ」

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