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第60話 中央島

 馬の足音が、乾いた土を叩く。




 島の外周から少し内側。アウルは護衛を一人だけ連れて進んでいた。




「思ったより広いな」




「はっ」




 短い返事。余計な言葉はない。




 アウルは軽く周囲を見渡す。




 森。岩場。起伏のある地形。




 そして――




「……静かだな」




 魔物の気配はある。だが、近くにはいない。




 それでも分かる。




「濃いな」




「はい」




 護衛が頷く。




「この辺りは魔力が強く、魔物のレベルも高い傾向にあります」




 アウルは口元を少しだけ歪めた。




「なるほどな」




 視線を前に戻す。




 馬を進める。




 しばらく進んだ先で、空気が変わった。




「……水の音か?」




 耳を澄ます。




 確かに聞こえる。




 微かな、流れる音。




「行くぞ」




「はっ」




 木々を抜ける。




 視界が開ける。




 そこには――




 泉があった。




 澄んだ水。




 中心から湧き出るように、静かに揺れている。




「……綺麗だな」




 アウルが呟く。




 ただの水場ではない。




 分かる。




 アウルは馬から降りた。




 ゆっくりと近づく。




 水面を覗く。




 神秘的な気配。




「……面白い」




 その時だった。




 ――ガサッ。




 気配。




 後ろ。




 護衛が即座に構える。




「来ます」




 森の奥から現れたのは――




 狼型の魔物。




 だが。




「でかいな」




 ただの狼ではない。




 身体は一回り大きく、目が赤い。




 圧がある。




 護衛が低く呟く。




「……レベル60前後」




 アウルは軽く息を吐いた。




「なるほど」




 普通の土地なら、ここまでの個体は滅多に出ない。




 だがここでは違う。




「これが中央島か」




 さらに気配が増える。




 二体、三体。




「群れか」




 護衛が一歩前に出る。




「下がってください」




 アウルは首を振った。




「いや、いい」




 アウルは静かに槍を構える。




 無駄のない動き。




 魔物が飛び出した。




 速い。




 だが――




 アウルの身体がわずかに動く。




 突き。




 一体、貫く。




 霧散。




 魔石だけが残る。




 間を置かず、二体目。




 踏み込み。




 突き。




 終わり。




 三体目。




 軌道を読む。




 最小の動きで、急所を穿つ。




 静寂。




 護衛が息を吐いた。




「お見事です」




 アウルは槍を軽く振る。




 血は残らない。




 すでに霧散している。




 地面に残る魔石を拾う。




「質も高いな」




 魔力の密度が違う。




「資源としても優秀か」




 立ち上がる。




 泉を見る。




 魔物。




 魔石。




 環境。




 全てが繋がる。




「……この島が特別である理由は、明確だな」




 わずかに口元が緩む。




「戻るぞ」




「はっ」




 馬に乗る。




 最後にもう一度だけ、泉へ視線を向ける。




 そして――




「ノア」




 小さく呟く。




 理外の男。




 この島の中心。




「これは楽しめそうだ」




 馬が再び走り出す。




 中央島の中を。

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