第59話 三人の距離
朝。
「ノア様」
控えめなノックの音と共に、静かな声が響く。
ノアはゆっくりと目を開けた。
「……アリス?」
扉が開き、アリスが入ってくる。
「おはようございます」
ベッドの横まで歩み寄る。その距離は、いつもより近い。
ノアは一瞬だけ目を細めた。
(……ああ)
昨日の出来事が自然と繋がる。
「起きれますか?」
アリスが手を差し出す。
ノアはその手を取った。軽く引かれ、そのまま距離が縮まる。
近い。
少しだけ、息が触れる距離。
「アリス」
「はい」
「アリスは、僕と一緒に居てくれる?」
一瞬だけ、アリスの瞳が揺れた。
だがすぐに――
「もちろんですっ」
迷いのない答え。
そのまま、ぎゅっと抱きつく。
ノアは少し驚いたが、そのまま受け入れた。
「……うん」
「ずっと、お側にいます」
「ありがとう」
それだけで、十分だった。
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食堂。
ノア、ソフィア、アウルの三人が朝食を取っていた。
いつも通りの空気。
だが、どこか少しだけ違う。
アウルがパンを齧りながら言う。
「じゃあ今日は島見てくるわ。馬と護衛一人借りるな」
ソフィアは短く頷いた。
「うむ」
「明日はノアとソフィア来れるのか?」
「問題ない」
「よっしゃ」
満足そうに立ち上がると、そのまま軽く手を振る。
「行ってくるわ」
去っていくアウル。
静かになる食堂。
ソフィアがノアを見る。
「ノア。後で執務室に来い」
「……? 分かった」
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執務室。
ノアとアリスが入ると、ソフィアはすでに席についていた。
「来たか」
「うん」
ソフィアは少しだけ考えてから口を開く。
「お前は普段、どう過ごしている?」
「中庭でのんびりしてるかな」
「そうか」
一拍置いて続ける。
「お前に働けと言ったな」
「うん」
「これからは執務室で過ごせ」
ノアは少し首を傾げる。
「ここで?」
「ああ」
ソフィアは淡々と告げた。
「お前が居ると、私の仕事が捗る」
ノアは少しだけ考えてから頷く。
「……分かった」
ソフィアはアリスへ視線を向ける。
「アリスもだ」
「承知しました」
「自由に過ごせ」
ノアは少し笑って言う。
「じゃあ休憩の時に一緒にお茶しようか」
一瞬だけ間があって。
「うむ」
短く返すソフィア。
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お茶の時間。
アリスが手際よく準備を進める。
ノアの隣に自然と立ち、カップを差し出す。
「どうぞ」
「ありがとう」
その様子を、ソフィアは見ていた。
「……お前たちは仲が良いな」
ぽつりと呟く。
「うん」
ノアは迷いなく答える。
アリスは少しだけ照れた。
ソフィアは視線を逸らす。
「ノア、近くに来い」
「分かった」
ノアが歩み寄る。
距離が縮まる。
ソフィアの鼓動がわずかに速くなる。
「ソフィア」
「なんだ?」
ノアは自然に言った。
「いつもありがとう」
一瞬、時間が止まる。
「……っ」
頬が熱くなる。
「き、急になんだお前は」
ノアは少し笑う。
ソフィアは視線を逸らしたまま言う。
「と、当然のことだ」
少しだけ間を置いて。
「それに……」
「?」
「……な、なんでもない」
そっぽを向く。
その様子を見て、アリスが静かに微笑んでいた。




