第56話 島の可能性
部屋。
ノアは自室に戻っていた。
扉が開く。
「よぉ」
アウルだった。
その後ろにクラリスとアリス。
三人が入ってくる。
アウルが部屋を見回した。
「中々快適な屋敷だなぁ」
クラリスが頷く。
「私もそう思います」
ノアも笑う。
「そうだね」
アリスが柔らかく微笑んだ。
穏やかな空気。
その中で。
アウルがふと真顔になる。
「今後なんだけどよ」
ノアが首を傾げる。
「うん」
アウルは腕を組む。
「俺、この島はもっと使えると思うんだよ」
「ん?」
ノアは不思議そうにする。
アウルは続ける。
「ルクレツィアと交易するだろ?」
「あれを足掛かりにしてよ」
「もっと世界巻き込んで、この島を開拓したら面白い気がするんだ」
ノアは少し考える。
「そうなの?」
クラリスがすぐに口を挟む。
「殿下」
「この島は辺境伯領です」
「軽々しくそのような話をされては」
アウルは肩をすくめた。
「分かってるって」
「ちゃんとソフィアに聞くさ」
ニヤリと笑う。
「あいつもさ」
「守ってるだけより、絶対面白いと思うぜ?」
クラリスはため息をつく。
ノアはそのやり取りを見て笑った。
「確かに、アウルらしいね」
アウルが指を立てる。
「だろ?」
そして。
「よし、行くぞ」
「え?」
ノアが戸惑う。
「ソフィアのとこだ」
「今すぐ話つける」
「いや、えっと……」
「行こう」
強引だった。
ノアは少し迷ってから。
「……分かった」
四人は部屋を出た。
廊下を進む。
そして。
執務室の前。
ノック。
「入れ」
中から声。
扉を開ける。
中にはソフィアとクラウディア。
何かの報告の途中だった。
ノアの姿を見た瞬間。
ソフィアの心臓が一瞬だけ跳ねる。
だが。
表には出さない。
「なんだ?」
アウルが即座に言った。
「俺、この島開拓してぇ」
「は?」
間髪入れずの返答。
クラリスが額に手を当てる。
「殿下……」
「説明を省きすぎです」
ノアが思わず笑う。
その笑顔に。
ソフィアの表情がほんの僅かに緩んだ。
その変化を。
アリスが見逃さなかった。
アウルが続ける。
「ルクレツィアと交易するだろ?」
「それを足掛かりにしてさ」
「この島を世界の中心みたいに発展させたら面白いと思ったんだ」
ソフィアは少し考える。
「……成程」
アウルが笑う。
「だろ?」
「良いよな?」
ソフィアは首を横に振った。
「私の一存で判断できる話ではない」
「陛下」
「それに老獅子」
「他の貴族の承認も必要だ」
アウルはあっさり言った。
「じゃあ許可もらってくるわ」
ソフィアの眉が動く。
「何?」
アウルは当然のように言う。
「ルクレツィアが一月後に来るだろ?」
「それまでに段取り済ませてやる」
「船はあるのか?」
ソフィアはじっとアウルを見る。
「……本気なのか?」
アウルは即答した。
「当たり前だろ」
迷いがない。
ソフィアは小さく息を吐いた。
「……分かった」
そして言う。
「二週間後に補給船が来る」
「その時、私も王都へ向かう」
アウルが顔をしかめる。
「えぇ、二週間も待つのかよ」
ソフィアは冷静に言う。
「事後処理がある」
クラリスが頷く。
「殿下、辺境伯もお忙しいのです」
アウルは肩をすくめた。
「しゃあねぇなぁ」
そしてすぐに切り替える。
「じゃあ馬貸してくれ」
「この島見て回る」
ソフィアは頷いた。
「構わん」
だが続ける。
「中央島の魔物は強い」
「必ず護衛を付けろ」
「分かってるよ」
アウルが笑う。
ソフィアは視線を巡らせる。
「二週間後、王都へは私と王太子殿下で行く」
「ノアは残れ」
「アリスもだ」
アウルは軽く頷く。
「まぁ今回は用事済ませるだけだしな」
アリスが一礼する。
「承知しました」
ノアは少しだけ肩を落とす。
「留守番かぁ」
アウルが笑う。
「何だ?」
「また王都行きたいのか?」
ノアは首を振る。
「いや」
「初めてだなって思って」
そのとき。
ソフィアが一言だけ言った。
「……心配するな」
少し間を置く。
「早く帰る」
アリスの目がわずかに細くなる。
(……なるほど)
確信に変わる。
アウルが手を叩く。
「よしっ」
「じゃあ明日から島回るか」
ノアが言う。
「僕も付いて行ったらダメかな?」
アウルが振り向く。
「お、いいじゃん」
「どうなんだ?」
ソフィアは少し考えた。
そして言う。
「私が同行する時なら許可する」
ノアを見る。
「私の後ろに乗れ」
アウルが笑う。
「お、いいのか」
「やったぜ」
アリスがじっと二人を見る。
「………」
何も言わない。
だが確かに感じている。
アウルが聞く。
「明日は?」
ソフィアは即答した。
「無理だ」
「明日は執務がある」
アウルが肩をすくめる。
「じゃあ俺だけか」
「護衛付きで回るわ」
ソフィアが頷く。
「それでいい」
静かな決定だった。
中央島。
その未来が、少しずつ動き始めていた。




