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第55話 告白

「話がある」




 執務室。




 扉が閉まる。




 静かな空間。




 机。




 書類。




 窓から差し込む光。




 ソフィアは立ったまま動かない。




 ノアもその場に立っていた。




 沈黙。




 時間だけが過ぎる。




 空気が張り詰める。




 ノアが首を傾げた。




「……どうしたんですか?」




 ソフィアは答えない。




 ただ前を見たまま。




「……」




 ノアは困ったようにもう一度口を開く。




「ソフィアさん?」




 沈黙。




 やがて。




 ソフィアの唇がわずかに動いた。




「……お前は」




 ノアが反応する。




「はい?」




 ソフィアは言った。




「お前は私のものだ」




 ノアは一瞬考えた。




「まぁ、辺境伯の預かりですから?」




 ソフィアの眉が動く。




「そうじゃない」




 短く、強く。




 ノアは首を傾げる。




「?」




 ソフィアは視線を逸らさない。




 だが。




 言葉が出ない。




「私は……」




 一度、言葉が止まる。




 喉が詰まるように。




「お前が……」




 拳がわずかに握られる。




 そして。




「お前が欲しいっ」




 言い切った。




 静寂。




 ノアは一瞬だけ目を見開く。




 だがすぐに理解した。




「ああ」




 小さく笑う。




 ソフィアの頬が一気に赤くなる。




「な、何だその反応はっ」




 ノアは優しく言った。




「初めて会った時から、綺麗だと思ってました」




 ソフィアが固まる。




 ノアは続ける。




「馬に相乗りした時」




「ずっとドキドキしてたんです」




 視線は真っ直ぐ。




 逃げない。




「今こうしていられるのは」




「全部ソフィアさんのおかげです」




 ソフィアの呼吸が少し乱れる。




 ノアは穏やかに笑う。




「ソフィアさんが僕を欲してくれるなら」




「僕は嬉しい」




 沈黙。




 ソフィアが問う。




「……私を受け入れるのか?」




 ノアは少しだけ首を傾げる。




「受け入れるも何も」




 そして。




 自然に言った。




「僕、最初からソフィアさん好きでしたよ」




「感謝しかないです」




 ソフィアの思考が止まる。




 顔が真っ赤になる。




 ノアは柔らかく言う。




「僕は」




「ソフィアさんと居たいな」




 その一言で。




 ソフィアの中の何かが、完全に崩れた。




「……っ」




 目を逸らす。




 だが、逃げない。




 そして。




「……誓えるか?」




 ノアが瞬く。




「え?」




 ソフィアは言う。




「お前は私のものだと」




「誓えるか?」




 ノアは少し考えた。




 そして。




 ゆっくりと一歩前に出る。




 片膝をつく。




 ソフィアの手を取る。




 そして――




 その甲に、軽く口づけた。




「……こんな感じで合ってます?」




 ソフィアは一瞬、言葉を失う。




 やがて。




 小さく息を吐いた。




「……あぁ」




「問題ない」




 声が少しだけ震えていた。




 ノアは立ち上がる。




「えっと……」




 少し考える。




「恋人関係、ですかね?」




 ソフィアが即答する。




「無論だっ」




 一歩踏み出す。




「むしろ誓いを立てておきながら違うと思うのかっ」




 ノアは苦笑する。




「いえいえ」




「ただ、ちょっと突然だったので」




「男として見られてないと思ってたので」




 ソフィアは少し視線を逸らす。




「……私がお前への気持ちを自覚したのは最近だ」




 静かに語る。




「お前が女に囲まれているのを見るたびに」




「胸がざわついた」




 ノアは黙って聞く。




「決定的だったのはヴィオラだ」




 ソフィアの眉がわずかに寄る。




「あの女がお前にキスをした時」




「自覚せざるを得なかった」




 ノアは頷く。




「なるほど」




 少し考えてから言う。




「僕も驚きましたけど」




「嫌ではなかったなぁ」




 空気が止まる。




 ソフィアの視線が鋭くなる。




「……何?」




 ノアが慌てる。




「あ、いや、その……」




「正直に言うと」




「女性に好意を向けられるのが嬉しいんです」




 ソフィアが小さく笑う。




「ほう」




 目を細める。




「つまり女なら誰でも良いと?」




 ノアが慌てて首を振る。




「いや、それは語弊が……」




 ソフィアがふっと笑った。




「冗談だ」




 一歩近づく。




「お前が女に囲まれるのは当然だ」




「それを咎める気はない」




 そして。




 静かに言う。




「だが忘れるな」




「お前は私のものだ」




 その言葉は、先ほどとは違っていた。




 命令ではない。




 確信だった。




「お前が私の側に居る限りは」




「多少は目をつぶる」




 ノアは少し困ったように笑う。




「えっと……ありがとうございます?」




 ソフィアは少しだけ咳払いをする。




「……二人の時は」




「気楽に話せ」




「敬称も不要だ」




 ノアは少し驚く。




「分かり……分かった」




 少し照れながら言う。




「ソフィア」




「僕を拾ってくれてありがとう」




 ソフィアの顔がまた赤くなる。




「と、当然のことをしたまでだ」




 視線を逸らす。




「よ、用は済んだっ」




「部屋に戻れっ」




 ノアは頷く。




「うん」




 扉へ向かう。




 開ける。




 一度だけ振り返る。




 ソフィアは背を向けていた。




 そして。




 ノアは部屋を出た。




 扉が閉まる。




 静寂。




 ソフィアはその場に立ち尽くす。




「……あぁ」




 小さく呟く。




「言ってしまった……」




 手を胸に当てる。




 鼓動が速い。




 だが。




 ゆっくりと息を吐く。




「……だが」




 わずかに笑う。




「恋人か……」




 目を閉じる。




「……悪くない」




 その言葉に。




 自分でも少しだけ驚いていた。

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