第52話 帰還前夜
港の風はまだ強かった。
ヴィオラと別れたあと。
ソフィアたちはそのまま港の奥へ歩いていた。
アウルが言う。
「とりあえず補給船の様子見とくか」
ソフィアも頷く。
「ああ」
桟橋を抜けると、木造の建物が並ぶ一画が見えてきた。
船を整備する場所。
ドックだ。
その奥に、見慣れた船があった。
ヴァルグレイン家の補給船。
船体の横では、数人の作業員が道具を使って整備をしている。
その中の一人がソフィアに気づいた。
慌てて頭を下げる。
「ソフィア様」
ソフィアは軽く手を上げた。
「状況は?」
管理者らしい女が申し訳なさそうに言う。
「すみません」
「中央島から戻ったら整備する流れでして」
少し困った顔をした。
「こんなに早くお戻りになるとは思わず」
ソフィアは苦笑する。
「仕方ない」
その横でアウルが言った。
「そういや俺たち」
腕を組む。
「謁見の翌日の早朝に出たよな?」
そして笑う。
「お前たち本当に謁見だけして帰ってるな」
クラリスが静かに言う。
「辺境伯もお忙しいでしょうから」
アウルがニヤニヤする。
「ほんとにそれだけかぁ?」
クラリスがため息をつく。
「殿下」
「茶化すのはおやめください」
アウルは手を振った。
「分かった分かった」
ソフィアは短く言う。
「……事情は分かった」
「宿に戻るぞ」
そのとき。
ノアは少し離れた場所でドックを見ていた。
船を修理する様子。
木材。
道具。
見慣れない光景だ。
「すごいな……」
アリスがそっと声をかける。
「ノア様」
ノアが振り向く。
「宿に戻りましょう」
「あ、うん」
ノアは頷いた。
こうして一行は港を後にした。
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宿に戻る。
夕方の港町はまだ賑やかだった。
部屋に戻る前。
アウルが言った。
「なぁ」
ソフィアを見る。
「この宿の中見て回るくらいはいいよな?」
ソフィアは腕を組んだまま答える。
「構わん」
アウルが笑う。
「よっしゃ」
ノアの肩を軽く叩く。
「ノア、行こうぜ」
「え?」
二人はそのまま宿の中を歩き始めた。
廊下。
食堂。
談話室。
宿の中には旅人も多い。
その中で。
視線が集まる。
ちらり。
またちらり。
女性の視線だ。
ノアは特に気にしていない。
だがアウルはそれを見ていた。
笑いながら言う。
「あはは」
「お前すげぇな」
ノアが首を傾げる。
「何が?」
アウルが言う。
「女の反応」
ノアは少し考えてから答えた。
「ああ」
「それか」
肩をすくめる。
「慣れてて意識してなかった」
アウルが吹き出す。
「こいつおもろい」
二人はそのまま宿を歩き回った。
そして夜。
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部屋。
ベッドの上で、ノアは天井を見ていた。
静かな夜。
港町の遠くから人の声が聞こえる。
「明日」
小さく呟く。
「中央島に戻るのか」
行きの旅。
不安もあった。
だが今は違う。
「アウルもいるし」
少し笑う。
「楽しかったな」
しばらく天井を見つめる。
そしてふと思った。
「アウルがいる中央島って」
「どうなるんだろう」
そのまま。
ゆっくり目を閉じた。
静かな夜だった。




