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第51話 紫星号

 港の風は強かった。




 帆船の帆がはためく音。




 船員の掛け声。




 その中で、アウルが腕を組んでヴィオラを見ていた。




 少し笑う。




「補給船が整備中なの知ってて提案してんだろ?」




 ヴィオラは肩をすくめた。




「さて、どうかしら」




 アウルは続ける。




「アンタ、いつから港町にいるんだ?」




 ヴィオラは少し考えるように視線を上げた。




「数週間かしらね」




 アウルの眉が上がる。




「ノアの噂のために?」




「アンタ暇なのか」




 ヴィオラはすぐに否定した。




「暇じゃないわ」




 黄金の瞳が細くなる。




「当主だもの」




「忙しい身よ」




 少しだけ笑う。




「ただ今回は」




「私の勘が強く反応しただけね」




 ノアは少し不思議そうに聞いていた。




 ヴィオラは続ける。




「まあ」




「ここで辺境伯と王太子」




「それに噂の男と繋がったのだから」




「十分な成果ね」




 アウルが笑う。




「へぇ」




「大したもんだ」




 ヴィオラは軽く頷いた。




 そしてソフィアを見る。




「出航は明日でいいの?」




 ソフィアは短く答える。




「明日の早朝に出る」




 ヴィオラは確認するように言った。




「馬車と護衛よね?」




「他は?」




「無い」




 ヴィオラは頷いた。




「分かったわ」




 そして港の一画を指差す。




 そこには一隻の大きな帆船が停泊していた。




 紫の旗。




 羅針盤と薔薇の紋章。




「あと」




 ヴィオラが言う。




「あれが私の船」




「紫星号よ」




 ノアが思わず見上げる。




 大きな船だった。




 帆が風を受けてゆっくり揺れている。




 ヴィオラは微笑む。




「明日」




「船まで来てちょうだい」




 ソフィアが頷く。




「分かった」




 ヴィオラは少し考えるように言った。




「本当なら」




「島に着いたらすぐ商談をしたいところだけど」




 肩をすくめる。




「仕事が溜まっているの」




「後日改めて訪ねるので」




「よろしくて?」




 ソフィアは迷わず答えた。




「構わん」




「こちらも事後処理がある」




 ヴィオラは小さく笑う。




「では」




「一月後くらいかしらね」




「伺うわ」




 ソフィアは頷いた。




「承知した」




 ヴィオラはゆっくり踵を返す。




 ロングコートが海風に揺れた。




「それじゃあ」




「また明日」




 黄金の瞳が一瞬だけノアを見る。




 そしてヴィオラは港の人波の中へ消えていった。




 残されたノアたちは、しばらく紫星号を見ていた。




 港の桟橋に停泊する一隻の大型帆船。




 紫の旗が風に揺れている。




 ルクレツィア船団の旗艦――




 紫星号。




 明日。




 あの船で中央島へ向かう。

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