第49話 黄金の瞳
港町。
潮の匂いが強い風が吹いていた。
桟橋には船が並び、荷役の声が響いている。
その港の一角。
一人の女が海を見ていた。
紫の髪。
潮風に揺れる。
ロングコート。
胸元の開いた白いシャツ。
タイトなパンツ。
腰には短いナイフ。
黄金の瞳。
ヴィオラ・ルクレツィア。
ノルヴァン共和国五大商家。
ルクレツィア家当主。
そして──
港の薔薇。
ヴィオラは軽く息を吐いた。
「……進展なし、ね」
この港町に来てから数週間。
中央島の男。
その噂を追って調査していた。
酒場。
商人。
船員。
だが。
決定的な情報は出てこない。
出てくるのは曖昧な噂だけだった。
「中央島に男がいる」
「顔が良い」
「辺境伯の城館」
どれも確証がない。
ヴィオラは肩をすくめる。
「どうしたものかしらね」
そのときだった。
港に一隻の船が入ってくる。
ヴィオラの視線が向く。
船体。
旗。
紋章。
ヴァルグレイン。
「……あら」
中央島の補給船だった。
桟橋に船が接岸する。
しばらくして。
船から人が降りてくる。
そして。
馬車。
辺境伯の馬車だ。
ヴィオラの瞳が細くなる。
「何かしら」
馬車はすぐに港を離れた。
王都方面へ向かう街道へ消えていく。
ヴィオラはしばらくそれを見ていた。
「……妙ね」
すぐに港の船員へ声をかける。
聞き込み。
そして分かったこと。
ヴァルグレイン辺境伯。
ソフィア・ヴァルグレイン。
そして。
もう一人。
先代辺境伯。
ヘレナ・ヴァルグレイン。
ヴィオラの眉がわずかに動く。
「……只事じゃないわね」
先代まで動いている。
中央島で何か起きている。
そして。
補給船はその後。
ドックへ入った。
整備。
つまり。
すぐには出港しない。
ヴィオラは小さく笑った。
「なるほど」
「戻ってくるのね」
中央島から来た一行は王都へ。
そして。
補給船が整備中なら。
帰りもこの港を通る。
「待つのが一番早いわね」
ヴィオラは港で待つことにした。
そして。
数日後。
港の桟橋。
ヴィオラは海を見ていた。
そのときだった。
視界の端に。
見覚えのある姿が入る。
馬車。
騎士。
そして。
辺境伯。
ヴィオラの黄金の瞳が細くなる。
「来た」
一行は港の桟橋へ歩いてくる。
ヴィオラは静かに観察した。
まず。
ソフィア・ヴァルグレイン。
鑑定。
レベル88。
間違いない。
若き辺境伯。
次。
槍を背負った青年。
鑑定。
──表示されない。
ヴィオラの目がわずかに動く。
(……見えない)
レベルが高い。
90以上。
王国でそのレベル。
僅かしかいない。
(王太子)
ヴィオラは小さく息を吐いた。
「面白いじゃない」
そして。
もう一人。
銀の髪の男。
ヴィオラの視線が止まる。
整った顔。
静かな雰囲気。
ヴィオラは鑑定を使った。
表示。
レベル。
無し。
ヴィオラの思考が一瞬止まる。
「……は?」
もう一度見る。
レベル。
無し。
その下。
白金。
エクストラスキル。
寵愛領域。
沈黙。
数秒。
ヴィオラはゆっくり息を吐いた。
そして。
笑った。
「なるほど」
視線を上げる。
銀髪の男を見る。
そして小さく呟く。
「あなたが」
「中央島の男ね」
さらに。
もう一度男の顔を見る。
噂。
中央島。
男。
顔が良い。
全部一致する。
ヴィオラは決めた。
接触。
歩き出す。
海風がロングコートを揺らす。
そして。
一行の前で立ち止まった。
優雅に微笑む。
「もし」
全員の視線が集まる。
ヴィオラはゆっくり言った。
「私の船で」
「中央島までお送りしましょうか?」
港の薔薇は。
静かに、獲物を見つけていた。




