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第45話 帰路の馬車

 馬車の扉が閉まる。




 御者が手綱を鳴らした。




「出ます」




 ゆっくりと車輪が動き出す。




 石畳の音。




 朝の王都の街が後ろへ流れていく。




 城壁の門を抜け、外町を通り過ぎる。




 やがて王都を離れる街道へ出た。




 馬車の中は四人。




 ノア。


 アリス。


 アウル。


 そしてクラリス。




 最初に口を開いたのはアウルだった。




「いやー」




 背もたれに体を預ける。




「王都出ると気が楽だな」




 ノアが笑う。




「王太子がそんなこと言っていいの?」




「いいんだよ」




 アウルは肩をすくめた。




「城の中は面倒くさい奴ばっかだ」




 クラリスが横から言う。




「殿下」




「その発言は王城の文官が聞いたら卒倒します」




「聞いてないからいい」




「そういう問題ではありません」




 淡々としたやり取りだった。




 ノアは思わず笑う。




「仲いいんだね」




 アウルが答える。




「腐れ縁だ」




 クラリスは小さく息を吐く。




「幼い頃からの付き合いです」




 ノアは少し驚いた。




「へえ」




 アウルが続ける。




「こいつの爺さんが俺の師匠だからな」




「城に入り浸ってた」




 クラリスは静かに補足した。




「祖父は殿下の武術指南役です」




「私はその頃から城に出入りしておりました」




 なるほど、とノアは頷く。




 そのとき。




 アリスが静かに口を開いた。




「クラリス様は文官なのですか?」




 クラリスは頷く。




「ええ」




「主に記録と補佐を担当しております」




 アウルが横から言う。




「俺が面倒な書類逃げると怒る係」




「逃げないでください」




 即答だった。




 ノアが笑う。




「大変そう」




 クラリスは小さく肩をすくめる。




「慣れております」




 その視線がふとノアへ向く。




 一瞬だけ。




 そしてすぐに逸れた。




 ノアは気づいていない。




 だがアリスは気づいていた。




(……あ)




 ほんの少しだけ。




 クラリスの表情が柔らいでいた。




 馬車は街道を進む。




 王都はすでに遠い。




 草原が広がる。




 アウルが窓の外を見ながら言った。




「しかし」




「中央島か」




 ノアを見る。




「楽しみだな」




 ノアは少し苦笑する。




「そんなに?」




「そりゃそうだ」




 アウルは笑う。




「中央島の男」




「しかも理外」




「面白いに決まってる」




 ノアは肩をすくめた。




「普通の人間だよ」




「それは違う」




 即答だった。




 アウルはニヤッと笑う。




「普通の人間は」




「王城であんな空気にしねえ」




 ノアは困った顔をする。




 その横でアリスがくすりと笑った。




 クラリスはその様子を静かに見ていた。




 馬車は進み続ける。




 昼を過ぎ。




 日が傾き始める頃。




 御者の声が聞こえた。




「見えてきました」




 窓の外。




 街道の先に小さな町が見える。




 石壁。




 煙突から上がる煙。




 街道の宿場町。




 ノアが呟く。




「宿町だ」




 アウルが頷いた。




「今日はここで一泊だな」




 夕暮れの光の中。




 馬車はゆっくりと町へ入っていった。




 中央島へ続く旅路は、まだ半分。

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