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第43話 安堵

 夜。




 王都の宿。




 廊下は静かだった。




 部屋の灯りだけが柔らかく揺れている。




 ソフィアは椅子に腰掛けていた。




 目の前にはアリス。




 部屋には二人だけだ。




 アリスが静かに口を開く。




「ソフィア様」




「ノア様は中央島に戻る」




「間違いありませんよね?」




「ああ」




 ソフィアは小さく息を吐いた。




「私が直訴するまでも無かった」




 ソフィアは少しだけ視線を落とした。




「女王陛下」




「老獅子」




「そして王太子」




「三人が立ち会った」




 アリスの目がわずかに開く。




「王太子殿下も?」




「秘匿の謁見だったが」




「老獅子が呼んだ」




 ソフィアは淡々と続けた。




「ノアの能力」




「寵愛領域の確認も行われた」




 アリスは少し身を乗り出す。




「結果は……?」




 ソフィアは答える。




「老獅子がすぐに見抜いた」




「王城に及ぶ危険性を」




 アリスの肩から力が抜けた。




「……良かった」




 小さな声だった。




 ソフィアは続ける。




「よって」




 アリスが顔を上げる。




「ノアは中央島へ戻ることになった」




「……隔離という形だな」




 ソフィアは少しだけ苦笑した。




「まあ」




「妥当だろう」




 アリスは頷く。




「確かに……」




 中央島なら問題ない。




 元々そこにいたのだから。




 ソフィアは続けた。




「それと」




 少しだけ間を置く。




「王太子も来る」




 アリスの目が丸くなる。




「……え?」




「中央島へ」




「同行するらしい」




 沈黙。




 数秒。




 アリスは小さく笑った。




「なるほど」




「それで今日の案内だったのですね」




 ソフィアは肩をすくめる。




「面白そうだから」




「それが理由らしい」




 アリスは納得したように頷いた。




 そのとき。




 ソフィアがふと思い出したように言う。




「そういえば」




「叔母上がお前を呼びに行ったとき」




「どこまで聞いていた?」




 アリスは少し考えた。




「……ノア様が辺境伯の預かりになること」




「王太子殿下の案内で王都を歩くこと」




「……でしょうか」




 ソフィアは小さく頷く。




「なるほど」




 部屋に静かな空気が流れる。




 アリスは柔らかく微笑んだ。




「ノア様」




「中央島に戻れるのですね」




 ソフィアは答える。




「明日、王都を発つ」




「ノアも連れて戻る」




 アリスはほっとしたように息を吐いた。




「良かったです」




 その表情は本当に安心しているようだった。




 ソフィアはそれを見て、少しだけ視線を逸らす。




 静かな夜だった。




 王都の灯りが窓の外に見える。




 アリスが言う。




「それでは」




「明日も早いですし」




「休みましょう」




「そうだな」




 アリスは頭を下げ、部屋を出ていった。




 扉が閉まる。




 部屋に一人残る。




 ソフィアはしばらく動かなかった。




 椅子に座ったまま。




 窓の外を見る。




 王都。




 巨大な街。




 王城。




 老獅子。




 王太子。




 そして――




 ノア。




 ゆっくりと息を吐く。




 そのときだった。




 ふと気づく。




 胸の奥の感覚。




「……」




 小さく呟く。




「安心している」




 自分でも少し驚いた。




 中央島に戻る。




 ノアが。




 自分の領地に。




 自分の側に。




 それを思った瞬間。




 肩の力が抜けていた。




 ソフィアは目を閉じる。




「……何故だ」




 答えはまだ分からない。




 だが。




 その安堵は確かだった。




 静かな夜が過ぎていく。

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