第42話 友達
夕暮れ。
王都の空は赤く染まり始めていた。
街の賑わいも、少しずつ落ち着いていく。
アウルが振り返る。
「よし」
「最後に良いもの見せてやる」
ノアが首を傾げる。
「良いもの?」
「来れば分かる」
そう言って、アウルは歩き出した。
向かった先は王城だった。
門をくぐり、城内へ入る。
衛兵たちが敬礼する。
アウルは慣れた様子で手を上げ、そのまま奥へ進んだ。
ノア、ソフィア、アリス、ヘレナも後に続く。
やがて、一つの部屋の前で止まった。
アウルが扉を開ける。
「ここだ」
中は広い部屋だった。
整えられた机。
本棚。
壁には槍が掛けられている。
そして奥には大きな窓。
バルコニーへ続いていた。
アウルが顎で示す。
「外見てみろ」
ノアは窓の外を見る。
そして。
思わず息を呑んだ。
「……すごい」
王都が一望できた。
石造りの街並み。
遠くまで続く屋根。
夕焼けに染まる城壁。
大通りにはまだ人の流れがある。
灯りが一つ、また一つと灯り始めていた。
中央島とはまったく違う光景だった。
ノアは静かに言う。
「……綺麗だ」
アウルが笑う。
「だろ?」
「俺はここから見る王都が一番好きだ」
ヘレナも窓の外を見て、小さく声を漏らした。
「悪くない眺めだ」
ソフィアは何も言わず、静かに街を見ている。
アリスは少し微笑んでいた。
しばらく、誰も言葉を発しなかった。
夕暮れの風が部屋に入る。
やがて。
アウルがノアを見る。
「なあ」
「ノア」
「はい?」
「友達になろうぜ」
唐突だった。
ノアは少し目を瞬かせる。
「友達?」
「ああ」
アウルは笑う。
「面白いし」
「一緒にいて退屈しなさそうだ」
軽い言い方だった。
だが不思議と真っ直ぐだった。
ノアは少し考える。
それから笑った。
「……うん」
「よろしく、アウル」
王太子ではなく。
初めて、名前で呼んだ。
アウルの口元が上がる。
「おう」
そのやり取りを、ソフィアとアリスが静かに見ていた。
男同士の友情。
それを目の前で見るのは初めてだった。
ヘレナが腕を組む。
「若いな」
ぽつりと呟いた。
アウルがふと思い出したように言う。
「そうだ」
「で?」
「いつ王都出るんだ?」
ソフィアが即答する。
「明日だ」
ノアが振り向く。
「え?」
ソフィアは平然としていた。
「用は済んだ」
「長く留まる理由はない」
アリスも頷く。
「わたしも、その方が良いと思います」
アウルは少し驚いたように眉を上げた。
だがすぐに笑う。
「そうか」
「じゃあ早朝だな」
「城壁の門で合流しよう」
ノアが頷く。
それから少し話し、ノアたちは宿へ戻ることになった。
部屋に集まったのは四人。
ノア、ソフィア、アリス、ヘレナ。
ヘレナが腕を組んだまま言う。
「私は王都に残る」
ソフィアが視線を向ける。
「叔母上?」
「休暇の残りも少ない」
「王都で済ませる用もある」
淡々とした口調だった。
そして続ける。
「私が乗ってきた馬は、お前が使え」
ソフィアは頷く。
「……承知しました」
それで話は終わった。
夜。
ノアはベッドに横になる。
今日一日のことを思い返す。
王都。
女王。
老獅子。
王太子。
屋台。
冒険者ギルド。
そして、夕暮れの王都。
いろいろありすぎた一日だった。
ふと、最後の言葉を思い出す。
――友達になろうぜ。
ノアは小さく笑った。
「……友達かぁ」
静かな声だった。
王都の灯りはまだ遠くで輝いている。
だがノアはゆっくり目を閉じた。
明日。
王都を発つ。
そしてまた、中央島へ戻る。




