第40話 屋台の串肉
商人街。
王都の中心の一つ。
露店が並び、人の流れは途切れない。
肉を焼く匂い。
香辛料の香り。
商人の呼び声。
ノアは辺りを見回す。
「……すごい」
アウルが笑う。
「だろ?」
「王都はこういう街だ」
「中央島とは別世界だろ」
「はい」
ノアは素直に頷いた。
そのとき。
ふわっと香ばしい匂いが流れてくる。
炭火。
肉の焼ける音。
ノアがそちらを見る。
「……いい匂い」
アウルが気づく。
「お」
「腹減ってるか?」
「少し」
アウルは笑う。
「王都来たならこれ食っとけ」
指差す。
屋台。
串肉が炭火で焼かれている。
店主がこちらに気づく。
「お、王太子殿下!?」
アウルが手を振る。
「いいから普通に売れ」
店主は慌てて頷いた。
「は、はい!」
焼き上がった串肉が渡される。
アウルは一本取り、ノアへ渡した。
「食ってみろ」
ノアは受け取る。
「いただきます」
一口。
香ばしい肉汁が広がる。
「……うまい」
素直な感想だった。
アウルが笑う。
「だろ?」
「王都の屋台はうまい」
ノアはもう一口食べる。
そのときだった。
「ノア様」
アリスがそっと近づいた。
布を取り出す。
ノアが首を傾げる。
「え?」
アリスは少し笑った。
「口元に」
そっと拭う。
距離が近い。
ノアは少し照れる。
「……ありがとう」
アリスが微笑む。
「いえ」
その光景を。
周囲の人々が見ていた。
屋台の娘。
通りすがりの女性。
買い物に来ていた令嬢。
「……誰あれ」
「貴族?」
「かっこいい……」
小さなざわめき。
ノアは気づいていない。
その横で。
ソフィアの眉がわずかに動いた。
(……やはり目立つ)
視線。
そして。
アリスとの距離。
ほんの少しだけ胸がもやつく。
そのとき。
アウルが周囲を見回した。
女性たちの視線。
そしてノア。
アウルの眉がわずかに上がる。
(こいつ)
(俺より目立ってないか?)
アウルが言う。
「おいノア」
ノアが振り向く。
「はい?」
アウルは笑った。
「お前」
「普通に目立つな」
ノアは首を傾げる。
「え?」
まったく自覚がない。
ソフィアが言う。
「食べたなら行くぞ」
少しだけ声が冷たい。
ノアは頷く。
「はい」
アウルが笑う。
「まあ王都は広い」
「まだ見せる場所はいくらでもある」
そして歩き出す。
石畳の大通り。
人の流れ。
賑やかな街。
ノアは串肉を食べながら思った。
(王都って……面白いな)
そして。
王都の散策は、まだ始まったばかりだった。




