第38話 王都散策
小謁見室の扉が閉まった。
静かな廊下。
ノアはまだ少し頭が追いついていなかった。
王。
老獅子。
王太子。
そして自分の能力の話。
「……これで大丈夫なのか?」
小さく呟く。
そのときだった。
「おい」
後ろから声がした。
振り向く。
そこに立っていたのは、先ほどの青年。
茶髪。
鋭い茶の瞳。
王太子――
アウレリウス・ヴァルディア。
愛称はアウル。
アウルはノアを見て、にやっと笑った。
「お前、ノアって言うんだろ」
「え?」
ノアは少し驚く。
「そうですけど」
アウルは腕を組んだ。
「俺、王太子」
軽い調子だった。
「アウレリウス・ヴァルディア」
「アウルって呼ばれてる」
ノアは戸惑う。
「は、はあ……」
アウルは続けた。
「俺も中央島行くから」
「よろしくな」
ノアは瞬きをした。
「え?」
横でソフィアの眉が動く。
ヘレナも腕を組んだ。
「……何故だ」
ソフィアが静かに聞く。
「王太子殿下。何故中央島へ?」
アウルは肩をすくめた。
「面白そうだから」
あまりにも軽い理由だった。
ノアは思わず言う。
「それだけ?」
「それだけ」
アウルは笑う。
「あと」
ノアを見る。
「お前」
「暇だろ?」
ノアは少し考える。
「まあ……」
アウルは指を立てた。
「じゃあ付き合え」
「王都見せてやる」
ノアが目を丸くする。
ソフィアとヘレナも一瞬固まった。
「王都を……?」
ソフィアが聞き返す。
アウルは軽く頷いた。
「せっかく来たんだ」
「見ないと損だろ」
そして言う。
「ちょっと聞いてくる」
そう言って、くるりと踵を返す。
再び小謁見室に戻っていった。
沈黙。
やがて。
アウルが戻ってきた。
満面の笑みだった。
「よし」
「許可取れた」
ソフィアが眉をひそめる。
「……早いな」
アウルは笑う。
「陛下は良いって」
「師はちょっと嫌そうだったけどな」
老獅子の険しい顔が、なんとなく想像できた。
アウルは手を叩いた。
「よし」
「行くぞ」
「王都案内してやる」
ヘレナが小さく息を吐く。
「……仕方あるまい」
「付き合ってやる」
ソフィアも頷いた。
「私も同行する」
ノアは少し戸惑いながらも言う。
「じゃあ……お願いします」
王城の門を出る。
その先には、王都の街が広がっていた。
石畳の大通り。
行き交う人々。
市場。
商人。
中央島とは比べものにならない賑わい。
ノアは思わず呟く。
「……すごいな」
アウルが笑った。
「だろ?」
「ここがヴァルディア王都だ」
そして。
王太子が先頭に立って歩き出す。
王都の街へ。
ノアの知らない世界が、また少し広がろうとしていた。




