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第37話 白金

 小謁見室。




 大きな玉座の間ではない。




 だが静かな威圧感がある部屋だった。




 中央には一段高い席。




 そこに座るのは一人の女性。




 茶色の髪。




 茶色の瞳。




 ヴァルディア王国女王――




 カエリア・ヴァルディア三世。




 その横には一人の老人。




 白髪。




 灰色の瞳。




 二メートルの巨躯。




 レオニウス・レオグラン。




 ヴァルディアの老獅子。




 そして。




 その少し後ろ。




 槍を携えた青年が立っている。




 茶髪。




 鋭い茶の瞳。




 王太子――




 アウレリウス・ヴァルディア。




 通称アウル。




 ソフィアたちは部屋へ入った。




「辺境伯ソフィア・ヴァルグレイン」




 ソフィアが跪く。




「参上いたしました」




 ヘレナも跪く。




 ノアは一瞬迷ったが、慌てて同じように膝をついた。




 その瞬間だった。




 女王の視線が止まる。




 老獅子の眉が動く。




 アウルの目が細くなる。




 三人の視線が――




 ノアへ向いた。




 沈黙。




 数秒。




 女王の内心。




(……あら)




(可愛い子ね)




 老獅子は無言でノアを見ていた。




 そして。




 鑑定。




 次の瞬間。




 灰色の瞳が細くなる。




(……何だ)




 表示されるステータス。




 レベル。




 無し。




 そして。




 白金。




 《寵愛領域》




 老獅子の思考が一瞬止まった。




「……」




 ゆっくり口を開く。




「ソフィア」




 低い声だった。




「説明しろ」




 ソフィアは顔を上げた。




「はい」




 そして語り始める。




 三ヶ月前。




 中央島で倒れていた男。




 記憶喪失。




 レベル無し。




 そして。




 白金のエクストラスキル。




 寵愛領域。




 老獅子は黙って聞いていた。




 中央島。




 検証。




 空気の変化。




 すべて。




 説明が終わる。




 沈黙。




 そのとき。




 アウルが小さく笑った。




「……面白いな」




 ノアを見る。




 心眼看破。




 だが。




 見えるのは――




 奇妙なほどの無害さ。




 野心もない。




 敵意もない。




 ただ。




 存在しているだけの男。




「なるほど」




 アウルは呟いた。




 老獅子が言う。




「試す」




 短い言葉だった。




 ノアが目を瞬かせる。




「え?」




 老獅子は腕を組んだ。




「寵愛領域」




「私に使え」




 ノアは困った顔をする。




「いや……」




「構わん」




 ノアは少し考えた。




 そして。




 意識を向ける。




 胸の奥。




 白金。




 柔らかいもの。




 少し広げる。




 沈黙。




 老獅子は腕を組んだままだ。




 何も変わらない。




「……効かんな」




 アウルが笑う。




「俺にも」




 ノアが視線を向ける。




 同じ。




 変化はない。




 そのとき。




 女王が小さく瞬きをした。




「……不思議ね」




 部屋の空気が、ほんの少し柔らかくなる。




 女王はノアを見る。




「この子の側は」




「落ち着くわ」




 沈黙。




 老獅子の灰色の瞳が細くなる。




(……そういうことか)




 男には効かない。




 女には効く。




 そして。




 王城には。




 女官がいる。




 侍女がいる。




 貴族の娘がいる。




 老獅子の思考が一瞬で走る。




 危険だ。




 そのとき。




 ノアが言った。




「今は抑えてます」




 全員の視線が集まる。




「意識して体の中に留めてるんですけど」




「無意識だと」




 少し肩をすくめる。




「広がります」




 ソフィアが言葉を続ける。




「中央島では」




「城館全体の空気が変わりました」




 沈黙。




 老獅子はゆっくり息を吐いた。




 そして。




 断言した。




「王城には置けん」




 部屋の空気が変わる。




 老獅子の声は低かった。




「中央島へ戻せ」




「隔離だ」




 ノアが目を丸くする。




 そのとき。




 アウルが笑った。




「面白そうだな」




 全員が振り向く。




 アウルは肩をすくめた。




「俺も中央島へ行く」




 沈黙。




 女王が息を吐いた。




 そして言う。




「……好きにしなさい」




 老獅子が顔をしかめる。




 だが女王は続けた。




「中央島」




「ヴァルグレイン辺境伯領」




「そこにノアを預けます」




 ソフィアが頭を下げた。




「承知しました」




 そして。




 王太子も中央島へ。




 こうして。




 小さな島に。




 王国の未来が、少しずつ集まり始める。

挿絵(By みてみん)

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