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第36話 謁見の朝

 王都の夜は、中央島とはまるで違っていた。




 窓の外。




 石畳の通りには灯りが並んでいる。




 魔石灯だろうか。




 柔らかな光が街を照らしていた。




 遠くから人の声も聞こえる。




 夜だというのに、王都は完全には眠らないらしい。




「……すごいな」




 ノアは窓の外を眺めながら小さく呟いた。




 中央島とは、規模が違う。




 人の数。




 建物の高さ。




 街の広さ。




 すべてが別世界だった。




 そして。




 今いるこの宿も、かなり立派だ。




 広い部屋。




 大きなベッド。




 厚い絨毯。




 机や椅子も中央島の城館とは違い、装飾が細かい。




 ノアはベッドに腰を下ろした。




「王都の宿ってこんななんだな」




 そのときだった。




 コンコン。




 扉が叩かれる。




「ノア」




 ソフィアの声だ。




「はい」




 扉を開けると、ソフィアとアリスが立っていた。




 ソフィアは部屋に入り、腕を組む。




「少し話す」




「明日の謁見についてだ」




 ノアは姿勢を正した。




 ソフィアは淡々と説明する。




「まず、王の前では跪く」




「許可があるまで顔を上げるな」




 ノアは頷く。




「勝手に話すな」




「質問されたときだけ答えろ」




「……分かりました」




 ソフィアは続ける。




「緊張するのは分かるが」




「余計なことを言うな」




「正直に答えればいい」




 ノアは少し苦笑する。




「正直に、か」




 ソフィアはノアを一瞬見た。




 そして小さく息を吐く。




「……それでいい」




「お前は嘘が下手そうだ」




 アリスが小さく笑った。




「確かに」




 ノアは肩をすくめる。




「否定できない」




 ソフィアは扉へ向かう。




「今日はもう休め」




「明日は早い」




「はい」




 二人は部屋を出ていった。




 扉が閉まる。




 静かな部屋。




 ノアはベッドに横になった。




 天井を見上げる。




「……王か」




 ヴァルディア王国。




 その頂点にいる人物。




 そんな相手と会う。




 自分が。




 中央島で倒れていた男が。




「……変な感じだ」




 小さく笑う。




 だが、緊張はしていた。




 ゆっくり目を閉じる。




 明日は。




 王城へ行く。




 そして。




 王に会う。




 ノアはいつの間にか眠っていた。





 ---




「ノア様」




 柔らかな声。




 肩を軽く揺すられる。




「朝です」




 ノアは目を開けた。




 アリスが微笑んでいる。




「おはようございます」




「……おはよう」




 窓の外はすでに明るい。




「朝食をお持ちしました」




 机の上には料理が並んでいた。




 パン。




 スープ。




 焼いた肉。




 果物。




 中央島では見ないような豪華な朝食だ。




 ノアは思わず言った。




「これ朝ご飯?」




 アリスがくすっと笑う。




「王都の宿ですから」




 ノアは椅子に座った。




 一口食べる。




「……うまい」




 素直な感想だった。




 アリスは嬉しそうに微笑む。




「それは良かったです」




 静かな朝食の時間が過ぎる。




 やがて。




 扉が叩かれた。




「準備はいいか」




 ソフィアの声だ。




「はい」




 ノアは立ち上がる。




 部屋を出る。




 廊下にはヘレナと騎士たちもいた。




 ヘレナが言った。




「行くぞ」




 一行は宿を出る。




 王都の朝の通り。




 人の流れ。




 その先。




 石造りの巨大な建物が見える。




 ヴァルディア王城。




 高い塔が空へ伸びていた。




 ノアは思わず呟く。




「……すごい」




 アリスが小さく笑う。




 馬車は王城へ向かって進んでいく。




 やがて城門をくぐる。




 そして。




 案内されたのは、玉座の間ではなかった。




 小さな部屋。




 だが、静かで厳かな空気がある。




「小謁見室だ」




 ソフィアが言う。




「今回は秘匿の謁見だからな」




 ノアは小さく息を吐いた。




 いよいよだ。




 ヴァルディア王国。




 その中心で。




 物語が、次の段階へ進もうとしていた。

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