第33話 王都
街道の先に、王都が見え始めた。
石。
城壁。
そして塔。
ノアは思わず声を漏らした。
「……大きい」
遠くからでも分かる。
中央島の砦とは比べものにならない。
ヴァルディア王国の王都。
その外壁だった。
高さはおよそ二十メートルはあるだろう。
分厚い石壁が、地平線のように横へ広がっている。
だが。
ノアが驚いたのは、城壁だけではなかった。
「……町?」
城壁の外にも、建物が並んでいた。
石造りの家。
木造の家。
市場らしき広場。
人の往来。
荷車。
商人。
まるで一つの都市のような広がりだった。
ソフィアが横で答える。
「外町だ」
「城壁の外にも二十万ほど人が住んでいる」
ノアは目を丸くした。
「二十万……」
中央島とは、まるで規模が違う。
馬車はその外町へ入っていく。
人々の視線が集まった。
騎士。
鎧。
そして紋章付きの馬車。
明らかに貴族の一行だ。
道の端で人々が足を止める。
「……辺境伯か?」
「ヴァルグレインの紋章だ」
そんな声が聞こえてくる。
ノアは少しだけ身を引いた。
「……見られてる」
アリスが小さく微笑む。
「目立ちますから」
ヘレナの声が前から飛んできた。
「気にするな」
「王都では貴族の馬車など珍しくない」
やがて馬車は城門へ近づいていく。
巨大な門。
その前には列ができていた。
旅人。
商人。
荷車。
門番たちが一人一人を止め、確認している。
どうやら検問らしい。
だが。
ヘレナが馬を進めた。
門番が顔を上げる。
そして次の瞬間、姿勢を正した。
「ヘレナ様!」
門兵が即座に敬礼する。
ヘレナは短く言った。
「通る」
それだけだった。
門兵は迷いなく答える。
「はっ!」
門が開かれる。
検問は行われない。
そのまま通過。
ノアは少し驚いた。
「……いいの?」
ソフィアが淡々と言う。
「先代辺境伯だ」
「問題ない」
馬車は城門をくぐる。
そして。
ノアは息を飲んだ。
城壁の内側。
そこは完全に別世界だった。
広い石畳。
整然と並ぶ建物。
人の流れ。
遠くに見える王城。
塔が空へ伸びている。
王国の中心。
ヴァルディア王都。
ヘレナが振り返った。
「騎士」
「はっ!」
護衛の一人が馬を進める。
ヘレナが命じた。
「王城へ行け」
「辺境伯ソフィア・ヴァルグレイン帰還」
「緊急案件あり」
騎士は頷いた。
「承知!」
次の瞬間。
馬を蹴る。
一気に走り出した。
石畳を蹄の音が響く。
王城へ向かって駆けていく。
ノアはそれを見送りながら呟いた。
「……本当に大事な話なんだな」
ソフィアは静かに答えた。
「国家案件だ」
短い言葉だった。
馬車は王都の通りを進む。
やがて一軒の宿の前で止まった。
三階建ての石造り。
王都でも上等な宿だ。
ソフィアが言う。
「今日はここで休む」
「謁見は明日だ」
ノアは小さく息を吐いた。
「……いよいよか」
ヴァルディア王国。
その中心。
王城。
明日、そこで。
王と会う。
ノアはまだ知らない。
その謁見が。
王国の未来を、少し変えることになることを。




