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第28話 出航

 早朝。




 ヴァルグレイン城館。




 空はまだ薄暗く、海風は冷たい。




 中庭にはすでに数人の姿があった。




 護衛騎士三人。




 そして馬車の御者。




 騎士たちは軽鎧を着込み、それぞれの馬の手綱を握っている。




 ノアは少し眠そうな目をこすりながら歩いてきた。




「おはようございます」




 アリスが柔らかく頭を下げる。




「おはよう」




 ソフィアとヘレナはすでに準備を終えていた。




 ソフィアはいつもの鎧姿。




 長い金髪を後ろで束ねている。




「全員揃ったな」




 短い声。




 騎士たちが姿勢を正す。




「港へ向かう」




「叔母上が乗ってきた船がまだ港にある。それを使う」




 ヘレナが苦笑しながら言う。




「すぐ帰るつもりだったからな。待機させた」




「出るぞ」




 御者が静かに馬車の扉を開いた。




 ノアとアリスが乗り込む。




 続いてソフィアも中へ入る。




 ヘレナは馬に跨った。




 騎士三人もそれぞれの馬に乗る。




 御者が手綱を引く。




 馬車がゆっくり動き出した。




 石畳を進む。




 城館の門を抜ける。




 中央島の朝はまだ静かだった。




 ノアは座席に体を預ける。




 そして少し首を傾げた。




(あれ?)




 思ったほど揺れない。




 むしろかなり安定している。




「どうかしましたか?」




 アリスが小さく聞く。




「いや」




 ノアは窓の外を見ながら言った。




「思ったより揺れないなって」




 アリスが微笑む。




「辺境伯用の馬車ですから」




「普通の馬車より作りが良いのです」




 なるほど、とノアは頷いた。




 確かに座席も柔らかい。




 外の騎士たちの蹄の音だけが静かに響く。




 しばらく進むと海が見えてきた。




 港だ。




 補給船が一隻、静かに停泊している。




 馬車はそのまま桟橋へ進んだ。




 船員たちが慌ただしく動いている。




 だがソフィアは短く言った。




「そのまま入れ」




 御者が頷く。




 馬車は止まらない。




 そのまま船の甲板へ。




 渡し板を越えて乗り込んだ。




 ノアは少し驚く。




「……このまま乗るんだ」




「ええ」




 アリスが頷く。




「港で降りる必要はありません」




 ソフィアが補足する。




「お前の顔を見せる必要もない」




 なるほど。




 馬車は船の奥へ移動し、固定された。




 外では船員たちが帆の準備をしている。




 しばらくして。




 低い号令が響いた。




 船がゆっくり動き出す。




 中央島の港が少しずつ遠ざかる。




 ノアは窓から海を見た。




 青い水面。




 朝の光。




 少しだけ胸が高鳴る。




(船旅か)




 初めてだ。




 アリスがその様子を見て、くすりと笑う。




「楽しそうですね」




「ちょっとだけ」




 ノアは正直に答えた。




 そのとき。




 ソフィアが言った。




「浮かれている暇はない」




 ノアが振り向く。




「本土に着いたら、そのまま街道へ出る」




「馬車で走る」




「途中、休憩を挟むが――」




 ソフィアは短く続けた。




「宿町まで長くは止まらん」




 ヘレナの声が外から聞こえた。




「まあ半日だ」




「すぐ着く」




 船は静かに進んでいく。




 中央島が遠ざかる。




 そして半日後。




 本土の港町が見えてくる。




 船が岸へ寄る。




 馬車は再び渡し板を渡り、地面へ降りた。




 御者が手綱を握る。




 騎士たちも馬を進める。




 すぐに街道へ。




 港町を抜けると、景色は一気に変わった。




 広い街道。




 草原。




 遠くの丘。




 馬車は一定の速度で進み続ける。




 途中、何度か短い休憩を挟んだ。




 だが長くは止まらない。




 日が傾き始める頃。




 前方に町が見えてきた。




 石壁。




 煙突。




 街道沿いに並ぶ建物。




 ヘレナが前を見ながら言う。




「着いたな」




 ソフィアも窓の外を見る。




「宿町だ」




 王都まで一日の距離。




 街道の中継地。




 今夜はここで休む。




 そして明日。




 王都へ向かう。

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