第21話 共和国の目
ノルヴァン共和国。
海洋交易国家。
アルセリアでも有数の港湾都市。
リヴァリエ。
朝の光が港を照らしている。
無数の帆船。
交易船。
軍船。
情報船。
海はこの国の血流だ。
その中心にある建物。
共和国情報局。
石造りの静かな執務室。
一通の書簡が机の上に置かれていた。
封蝋には見慣れた印。
海路通信。
「中央島……」
女が小さく呟く。
マリア・セルヴェン。
共和国情報局、上級監査官。
報告書を開く。
簡潔な内容だった。
──ヴァルディア本土、港町酒場。
──中央島補給船の乗組員の会話。
──ヴァルグレイン城館に男がいるとの噂。
「……男?」
思わず声が漏れる。
中央島。
アルセリアの中央。
直径八キロほどの小島。
だがその価値は巨大だ。
帝国。
聖国。
共和国。
そしてヴァルディア。
四つの勢力が睨み合う場所。
現在その島を押さえているのはヴァルディア王国。
そして統治しているのが
ソフィア・ヴァルグレイン。
「王国の剣ね」
マリアは椅子にもたれた。
中央島は小さい。
だがあの島を押さえるということは
海路を押さえるということだ。
共和国が長年欲してきた場所。
だが。
「そこに男?」
この世界の男女比は一対九。
男は希少だ。
だが中央島は軍事拠点。
常駐しているのは女兵ばかりのはず。
考えられる可能性はいくつかある。
漂着者。
交易船の客。
あるいは──
マリアは書簡をもう一度読む。
噂。
確証はない。
だが。
中央島で起きることは
小さな話では終わらない。
「調査ね」
短く呟く。
「追加の報告を集めて」
部下が頷く。
窓の外には海。
そしてその向こう。
中央島。
「面白くなってきたわね」
マリアは静かに笑った。
世界の中心で生まれた小さな噂は
今、
共和国の机の上に置かれている。




