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第20話 補給船の噂

 ヴァルグレイン辺境伯領。




 通称「中央島」




 中央島へ向かう補給船。




 帆は風を受け、ゆっくりと海を進んでいる。




 船縁に寄りかかりながら、私は煙草に火をつけた。




 月に数回。




 この航路を往復する。




 ヴァルディア本土と中央島を結ぶ補給船だ。




「見えてきたぞ」




 舵手の声に顔を上げる。




 水平線の先。




 小さな島が浮かんでいる。




 中央島。




 アルセリアの中央に位置する島だ。




 大きさは直径八キロほど。




 だが価値はそれ以上。




 帝国。




 聖国。




 共和国。




 そしてヴァルディア王国。




 四つの勢力が常に視線を向けている場所。




 今、その島を押さえているのはヴァルディアだ。




「ヴァルグレインの島か」




 思わず呟く。




 城館は高台にある。




 海からでも見える石造りの建物。




 その横には見張り塔。




 あそこに居るのが




 ソフィア・ヴァルグレイン。




 若干二十三歳。




 レベル80を超える剣士。




 剣術スキルIX。




 化け物だ。




「港に入るぞ」




 船は静かに接岸する。




 港は小さい。




 交易港というよりは補給港だ。




 兵士たちが荷役を手伝いに出てくる。




 箱を下ろす。




 穀物。




 保存肉。




 魔石。




 武具。




 いつもの仕事だ。




「おい、それこっちだ」




 兵士の声が飛ぶ。




 荷を運びながら、自然と雑談が始まる。




 港の仕事はそんなものだ。




 その時。




 兵士の一人が言った。




「そういや聞いたか?」




「何をだ?」




「屋敷に男がいるらしい」




 思わず手が止まる。




 男?




 この世界の男女比は一対九。




 男は希少だ。




 だがここは中央島。




 軍事拠点だ。




 常駐しているのは女兵ばかりのはず。




「ソフィア様の客らしい」




「めちゃくちゃ顔がいいとか」




「侍女が騒いでたぞ」




 笑い声が上がる。




 冗談のような話だった。




 だが。




 頭の片隅に残る。




 作業はすぐ終わった。




 船は再び本土へ向かう。




 数日後。




 ヴァルディア本土の港町。




 いつもの酒場。




「中央島で面白い話を聞いた」




 酒を飲みながら、何気なく話す。




「屋敷に男がいるらしい」




 笑い話のつもりだった。




 だが。




 隣の席に座っていた女が、




 ほんの一瞬だけ手を止めた。




 そして静かに酒を飲み干す。




 中央島。




 男。




 その二つの言葉は、




 海を越えて広がっていく。




 静かに。




 確実に。




 その夜、一通の報告書が海を渡った。

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