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第18話 白金の触れ方

 中庭。




 午後の光は穏やかだ。




 アリスが花の手入れをしている。




「アリス」




「はい?」




 振り向いた翠の瞳が柔らかい。




「少し、付き合ってもらってもいい?」




 不安はない。




 だが確信もない。




 何も持たぬままでは終われない。




「試してみたい」




 アリスは一瞬だけ目を細め、頷いた。




「喜んで」




 その声音に迷いはない。





 ---




 石畳の中央に立つ。




 距離は二歩。




 昨日までと同じ。




 違うのは、意識だけ。




 目を閉じる。




 内側へ。




 白金。




 触れようとすると逃げる。




 掴もうとすると散る。




(力、じゃない)




 ならば。




 押すのではなく、寄せる。




 意識を、アリスへ向ける。




「火の魔法を」




「はい」




 詠唱が始まる。




 四呼吸。




 火が灯る。




 安定している。




 だが、昨日と同じだ。




(もう少し)




 白金を、広げるのではなく。




 絞る。




 “ここ”だけに。




 アリスの周囲だけに。




「もう一度」




 三呼吸。




 火が灯る。




 輪郭が明瞭だ。




 揺れが少ない。




 アリスの瞳が揺れる。




「……軽い」




「軽い?」




「魔力が、素直です」




 もう一度。




 今度は、ノアが意識を外す。




 四呼吸。




 わずかに揺れる。




 戻す。




 三呼吸。




 安定。




 沈黙。




 アリスがゆっくりと息を吐いた。




「……変わっています」




「やっぱり?」




「はい」




 火を消す。




 そして、静かに言う。




「わたしの中にあるものが、繋がりやすいのです」




 与えられてはいない。




 増えてもいない。




 ただ、繋がる。




 ノアは目を閉じる。




 白金は、確かに応じている。




 広がるだけではない。




 寄せられる。




 絞れる。




 触れられる。




「……範囲は」




 二歩離れる。




 揺らぐ。




 三歩。境界を越えた感覚。




 さらに薄れる。




 戻る。




 安定。




 二人の距離が、そのまま境界線のようだった。




「共鳴、でしょうか」




 アリスが呟く。




「共鳴?」




「はい。恐れが薄れます。迷いが消えます。……落ち着きます」




 視線が絡む。




 近い。




 昨日より。




「ノア様の側は、安心いたします」




 白金が、微かに強まる。




 意識していないのに。




(感情……?)




 その瞬間。




 揺らぎが生まれた。




 強まりすぎる。




 一瞬、火が明るくなる。




「っ」




 アリスが驚く。




 すぐに意識を戻す。




 静まる。




 沈黙。




「……大丈夫?」




「はい、大丈夫ですよ」




 二人同時に息を吐く。




 大きな変化ではない。




 だが。




 確かに。




 “扱った”。




「夜、ソフィア様へ」




 アリスが言う。




「報告する?」




「はい。これは……隠しておく力ではありません」




 ノアは頷く。




 白金は、静かに満ちている。




 理の外。




 だが、触れられる。




 その実感だけが、残った。

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