第17話 発現しない力
中庭。
アリスが火を灯す。
訓練場。
ソフィアの剣が空気を裂く。
スキルは、積み上げれば応える。
修練すれば、階位は上がる。
理は平等だ。
——理の内にいる限り。
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一週間。
僕は試した。
剣を握る。
振る。
型を真似る。
何も起きない。
魔法を試す。
詠唱する。
集中する。
火は灯らない。
水も、風も、何も。
(……発現、しない)
アリスは気遣う。
「焦らずとも」
ソフィアは言う。
「スキルは修練の果てにある」
だが。
一週間。
二週間。
兆しすらない。
意識を内へ向ける。
ステータス。
名前:ノア
レベル:—
スキル:
寵愛領域
増えない。
増える気配もない。
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夜。
執務室。
「発現しません」
正直に告げる。
ソフィアは頷いた。
「だろうな」
即答。
少しだけ救われる。
「お前は理の外にある」
蒼い瞳は静かだ。
「理の体系に従わぬ存在が、理の枠組みの恩恵を受けるとは限らぬ」
つまり。
「スキルを持たぬ可能性もある」
胸が、少し沈む。
男の希少性。
エクストラ。
理外。
特別。
その響きの裏側に、
「欠落」があるとは思っていなかった。
「気落ちするな」
珍しく柔らかい声。
「戦う者である必要はない」
一拍。
「お前は既に、役割を持っている」
役割。
寵愛領域。
兵の精度を上げる。
成長を早める。
壁を薄くする。
だが。
「……自分では、何も出来ないのは、少し悔しいですね」
本音だった。
沈黙。
やがて。
ソフィアは言う。
「ならば、理の外を見ろ」
「え?」
「理に沿って発現せぬなら、理の外に目を向けろ」
蒼い瞳が、真っ直ぐ向く。
「寵愛領域に意識を向けてみろ」
「今まで、無意識に広がっていた」
「ならば意識的に触れられるはずだ」
胸の奥。
あの感覚。
空気が柔らぐ感覚。
「……分かりました」
目を閉じる。
意識を沈める。
理ではない。
階位でもない。
色でもない。
白金に発光する、あの名。
——寵愛領域。
ふわり、と。
何かが応えた気がした。
まだ、微かだ。
だが確かに。
理の階段とは違う、
別の道が、そこにあった。




