第15話 灯る火、揺らぐ壁
中庭の一角。
午後の光が白い石畳を照らしている。
「本日は、火の魔法をご覧に入れます」
アリスが静かに言った。
栗色の髪が揺れる。
その横顔は、少しだけ緊張している。
「僕が見てて平気?」
「……はい。むしろ、その方が」
言い切らずに、呼吸を整える。
両手を胸元へ。
目を閉じる。
学院で叩き込まれた定型詠唱。
声は澄んでいる。
五呼吸。
掌に小さな火が生まれる。
揺れる。
熱はあるが、芯が定まらない。
「これが、現在のわたしです」
火は消える。
少しだけ肩が落ちる。
「もう一度」
今度は、距離が近い。
二歩。
それだけ。
四呼吸。
火が灯る。
揺れが、少ない。
輪郭がはっきりしている。
アリスの瞳が揺れる。
「……違います」
「何が?」
「怖くありません」
火が暴れるかもしれないという微かな不安。
魔力が乱れる予感。
それが、ない。
「もう一度」
今度は、詠唱の一節を削る。
三呼吸。
成功。
火は先ほどより明るい。
安定している。
僕はただ、見ているだけ。
何もしていない。
けれど。
空気が、澄んでいる。
五回。
十回。
失敗は、ない。
詠唱は自然に短くなる。
構築の迷いが消える。
呼吸が整う。
「……理解が、早い」
アリスが呟く。
「いつもなら、ここで止まるのに」
火を消す。
もう一度。
今度は意識的に魔力の流れを感じているようだ。
「壁が……薄いです」
壁。
その言葉に、僕は首を傾げる。
「壁?」
「はい。次の段階に上がる時、重くなるのです」
だが今日は違う。
手応えが、軽い。
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自室。
アリスは灯りを落とす。
深呼吸。
意識を内へ。
ステータスを開く。
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名前:アリス・レインフォード
レベル:24
スキル:
火魔法 III
光魔法 I
魔力制御 II
魔法理論 II
礼法 IV
家事 III
王国史 II
政務 II
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「……」
昨夜まで、IIだった。
指先が震える。
「上がって……います」
通常なら、数週間はかかる。
修練を積み、安定させ、ようやく届く。
それが、一日で。
理由は分かっている。
(ノア様)
隣に立つだけで、
迷いが減る。
恐れが薄れる。
集中が澄む。
理解が早まる。
力を与えられたのではない。
自分の中にあったものが、
滑らかに繋がった。
「……ずるい方です」
小さく笑う。
でも。
その声は、どこか嬉しそうだった。
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翌朝
中庭。
「上がったの?」
「はい」
アリスは、少しだけ誇らしげだ。
「ノア様のおかげです」
「僕、何もしてないよ」
「ええ」
即答。
そして、柔らかく続ける。
「だからこそです」
僕は意味が分からず首を傾げる。
だが、少し離れた場所で。
ソフィアが、その様子を見ていた。
蒼い瞳が細まる。
「……成長速度が早い」
クラウディアが小声で言う。
「はい。通常の倍以上かと」
ソフィアは息を吐く。
「理解促進か」
軍事的価値が、また一つ増えた。
壁が、薄くなる。
理の階段が、滑らかになる。
「囲い込みは、正しい」
そう呟きながらも。
視線は、ノアから離れない。




