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第13話 理の中の例外

 執務室。




 夕陽が机を赤く染めている。




「昨日の件だ」




 ソフィアは正面から告げた。




「屋敷外への単独行動を禁じた理由を説明する」




 僕は小さく頷く。




「まず前提として、この世界の男女比は九対一だ」




 一割。




 男が希少なのは知っていた。




 だが言葉にされると重い。




「男は希少だ。出生と同時に国に把握される」




 蒼い瞳は揺れない。




「だが、お前は戸籍にない」




 ぐうの音も出ない。




「身元不明。レベルなし。エクストラスキル持ち」




「この世界の人間と魔物には、必ずレベルがある」




(……魔物?)




 恐る恐る手を上げる。




「魔物がいるんですか?」




 ソフィアの眉がわずかに動く。




「辺境だぞ。いるに決まっている」




 さらっと。




「レベルは理だ。肉体、魔力、総合性能の指標」




「例外は存在しない」




「じゃあ僕は?」




「例外だ」




 即答。




 背筋が冷える。




「人でありながら、レベルを持たぬ」




「……異常?」




「理から外れている」




 やんわり言い換えられた。




「さらにスキルだ」




 ソフィアは続ける。




「通常のスキルには階位がある」




「階位?」




「IからX。修練により上昇する」




「色も帯びる。レベル帯と同じ色だ」




「赤とか、緑とか?」




「そうだ。階位は必ず表示される」




 一拍。




「だが、お前の寵愛領域には階位がない」




 沈黙。




「白金に発光している」




(……ん?)




 前にも感じた疑問。




 大事なことのような気がして思わず尋ねる。




「僕のステータスが見えるんですか?」




 一瞬の沈黙。




 ソフィアは一拍置いて答える。




「鑑定スキルだ。他者や魔物のステータスが見える。」




 淡々とした口調。




(……鑑定スキル)




 これまでの経緯が過ぎる。




(最初から見えていた?)




「続けるぞ」




 沈みそうになった意識を呼び戻す。




「エクストラスキルは先天固有。階位を持たぬ」




「発現するのは男の0.01%」




「え?」




「一万人に一人だ」




 一万人に一人。




 言葉にした瞬間、その重みが遅れて押し寄せる。




「伝承にある特徴と一致する。階位なし。異常発光」




 蒼い瞳が、まっすぐ向く。




「寵愛領域はエクストラスキルと見てまず間違いない」




 動揺する。




 だが、どうにか表情には出さずに済んだ。




「男が一割。その中の0.01%。さらにレベルなしの異物」




 指折り数えられる。




「国家案件だ」




 昨日より、理解できる。




「昨日の訓練で証明された。お前は周囲の精度を上げる」




 精神安定。 集中補助。 疲労軽減。




 自覚はない。




 だが事実。




「これが外に漏れればどうなる」




 王家。 帝国。 聖国。




 頭に地図がよぎる。




「……確保?」




「争奪だ」




 即答。




 変に慰めない。




「男というだけで囲われる世界だ」




 その声は冷静だ。




「その上で、お前は理の外にいる」




 沈黙。




 僕は天井ではなく、彼女を見る。




 この人は、誤魔化さない。




「自由は無くなる」




 胸が少し跳ねる。




「制限もある」




 鼓動が早くなる。




「だが、それは管理のためではない」




 一瞬だけ、声音が変わる。




「守るためだ」




 辺境伯ではない声。




 個人の声。




 僕は息を吐く。




「……なるほど」




 思わず漏れる。




「僕が外に出たら……まずいでしょうね」




「そうだな」




 即答。




「レベルもない。身元もない。希少な男。しかもエクストラ」




 条件が揃いすぎている。




「……じゃあ」




 肩の力が抜ける。




「大人しくします」




 ソフィアが目を細める。




「不満はないのか」




「なくはないですけど」




 正直に言う。




「でも納得はしました」




 自由は減る。




 だが――




「生きていてこそですし」




 静かな間。




 ソフィアは小さく息を吐いた。




 張り詰めていた空気が、わずかに緩む。




「最初に言ったな。働けと」




「はい」




「撤回はせぬ」




 やはり。




「だが急がぬ」




 蒼い瞳が、まっすぐ向く。




「屋敷内で自由に過ごせ。学べ。鍛えろ」




 圧はある。




 だが、急かしてはいない。




「屋敷外は許可制だ」




「分かりました」




 今は、それでいい。




 檻ではない。




 保護圏。




 理の中で。




 例外として生きる。




 少なくとも――




 この屋敷の中では。

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